(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「汽笛が殺意を誘うとき」劇団フーダニット第7回公演

劇団フーダニットは、1999年のプレ公演を経て、2000年にロベール・トマの「罠」で旗揚げしたミステリ劇を専門に上演している劇団である。都内江戸川区南部の地域コミュニティに根をおろすローカル劇団であり、役者やスタッフワークはまだまだ発展途上であるけれど、この劇団にはよそにない強みがある。それは、現役バリバリの推理作家たちによる書き下ろし戯曲を演目にしているところである。
アガサ・クリスティーやディクソン・カーらの作品と交互に、これまで辻真先若竹七海らの作品を上演してきている。若竹七海の作品をとりあげるのも今回が3度目。「毒を入れないで」(2001年)、「死がいちばんの贈り物」(2003年)に続く新作戯曲「汽笛が殺意を誘うとき」である。
時は昭和十五年。太平洋上に浮かぶ豪華客船櫻花丸が舞台である。羽振りのいい企業家が、娘や女中、秘書らをともなって洋上の旅を賑やかに満喫している。やや鄙びた一等船室のホールの片隅で、それを冷ややかに眺める紳士は、やがて11年前の華やかな航海の思い出を、ひとりの少女に語り始める。
一作目がワン・シチュエーションのコメディ、二作目が毒のあるコージー・ミステリと、一作ごとに工夫を凝らす作者らしく、第三作は船上ミステリである。しかし、そこは、ミステリに関してはプロパーの作者のこと、こう来るだろうという観客の予想を、意表をつく形で裏切ってくれる。いや、正直びっくりしました。舞台劇でこの仕掛けをやる勇気に脱帽。若竹七海の企みに満ちた戯曲だけでも、(特にミステリ・ファンの方)観る価値は十分にあります。
会場のホールは、小さな劇団には使いこなし難い広さだが、それを逆手に取るかのように、張り出しまでつけて広く使う大胆さが面白い。また、よその劇団の応援を仰ぎ、船上レビューを披露するサービス精神もよし。さらに、旅の栞の体裁をとったパンフや、当時のものを復刻したとおぼしき乗船券(入場券)など、凝った趣向で観客をもてなすスタンスも嬉しい。役者のレベルにばらつきがあるのは大きな課題だが、次もまた足を運びたいと思わせる楽しさを買いたい。(休憩15分を含む120分)

■データ
幕間にジュースとお菓子を振舞われてご機嫌の初日ソワレ/タワーホール船堀小ホール
8・24〜8・26
作/若竹七海 演出/松坂晴恵
出演/円城寺ソラ、奥恭子、恩井奈都子、甲斐あやか、川口伸一郎、川崎拓己、KUMI、さつまいも、白石直子、宝田昭男、橘沙織、谷口真之、堀田春良、沼田佳男、馬場貴海、道下あゆみ、棗銀狐、松坂晴恵
レビュー/劇団ティアラ