(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「VACANCY? NO VACANCY!」PATHOS PACK

TVやNODA・MAPへの出演でお馴染みの宇梶剛士にとって、先行するdamin(1999年結成)はプロデュース・ユニット、そして今回からスタートするPATHOS PACKは劇団という位置づけ。自らのブログなどで表明しているステートメントからは、現在形のPATHOS PACKを主体に今後は活動をしていこう、という意気込みがうかがえる。
解体工事が始まろうとしている古い家。そこで、男はひとりの少年と出会う。アフリカ行きの船に密航した冒険談を嬉々として語る少年。しかし、少年は突如として男に飛びかかってくる。駆けつけた工事現場の労働者たちに助けられるが、男は目の前の古い家が気にかかり始める。そして、現場の責任者とおぼしき人物から家の鍵を借りて、中に入ってみると…。
さまざまな人物がめまぐるしく登場し、繋がりのなさそうは話が錯綜する。戸惑いと好奇心で舞台を追っていくと、やがてどうやら谷川昭一郎演じる男が作家で、彼の廻りを賑やかに飛び回るのは、彼の作中人物だということが見えてくる。一方、彼の家族らも登場し、主人公の男は彼の義父であること、そして男には少年時代に悔いある出来事が翳をおとしていることなどが、次々と浮かび上がってくる。
一昨年にdaminを見て(ハイキング フォー ヒューマン ライフ)、その先読みをまったく許さない濃厚な物語世界に圧倒された記憶があるが、今回のPATHOS PACKにも共通のものを感じた。独特の毒のようなものが物語のあちこちにあるのが特徴だが、その背景に広がる物語世界は実に奔放で、独創性に息を呑むのもしばしば。
そんな濃厚さを、沈殿するすることなく舞台化出来ているのは、役者たちの力も大きい。今回も、劇団員の宇梶、金井、平野はもとより、夢の遊眠社にいた川俣しのぶの老妻役にしても、沢井正棋の少年役にしても、その人物の背景に思いが及ぶような懐の深い芝居ぶりが光っている。さらに、重たくなりがたちな流れに軽妙さをもたらす谷川昭一郎が、これまたいい味を出している。
ネット上では厳しい劇評をずいぶんと見かけたけど、わたしは買い。宇梶の人気ぶりを考えればそうそう公演はうてないだろうが、次回も楽しみに待ちたい。(100分)

■データ
観終わるまで高木珠里の降板(ショックだ!)を知らなかった初日マチネ/中野ザ・ポケット
8・21〜8・26
作・演出/宇梶剛士
出演/宇梶剛士、金井良信、平野貴大、川俣しのぶ、谷川昭一郎(プリセタ)、前田晃男、松本キック、信川清順、沢井正棋、岡ひとみ(南河内万歳一座) ※高木珠里は急病で降板