(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ロマンス」こまつ座&シス・カンパニー共同プロデュース

チェーホフの生涯を、妻オリガ、妹マリアとの関係に視点を置いた井上ひさしの脚本にて。若手の松たか子が、老獪な(?。失礼)大竹しのぶにどう挑むかという興味も湧いてくるこまつ座シス・カンパニーの提携公演。念のために序盤戦を敬遠してチケットを購入したが、今回も脚本があがったのは初日の2日前だったようだ。
四人の男優が、リレー式にそれぞれの年齢に相応しいチェーホフを演じていくという趣向だが、休憩までの前半、つまりチェーホフの少年時代(井上芳雄)から青年時代(生瀬勝久)にかけては、まるまるなくても良かったという退屈さ。これは役者ではなく脚本の問題で、定番メニューをどこかから取り寄せたかような既視感のあるエピソードが並び、眠気を誘う。マジに帰ろうかと思ったほどだ。
しかし、休憩後最初のシーンは、チェーホフ段田安則)が妻のオリガ(大竹しのぶ)と出会う場面なのだが、このあたりから俄然良くなってくる。チェーホフは、オリガの持つ女優としての才能と無邪気な可愛さに恋をするが、彼には可愛い妹のマリア(松たか子)がいる。プロポーズを振ってまで兄に人生を捧げているマリアは、兄とオリガのロマンスに戸惑い、そしてときに怒りをおぼえていく。
後半の、ふたりの女優による密度の高いやりとりが、物語のいい空気を作っていく。大竹しのぶは、例によって非常に達者な芝居を見せるが、それに絡む松たか子もいい。親友でありながら、ある意味ライバルでもある姑のオリガとの複雑な距離を、違和感なく演じて見せる。勝ち負けでない微妙な人間の感情をしっかりと演じ、素晴らしい。
後半はサブのエピソードも冴えており、生瀬演じるトルストイチェーホフを訪ねてくる場面は、これ以上はないくらいにベタなシーンなのだが、心地よく笑いをとる。生瀬を起用したキモは、なるほどここにあったかと思えるひとくだりだ。
ただ全体に、同じ生瀬が出演した「コンフィダント」を連想させるところが気になるといえば気になるところ。偶然のことだとは思うが、公演時期も近いだけに、もう少し差別化を意識してもよかったかもしれない。(80分+休憩15分+80分)※9月30日まで。

■データ
木野花によく似た人を客席に見かけたマチネ/世田谷パブリックシアター
8・3〜9・30
作/井上ひさし 演出/栗山民也 
出演/大竹しのぶ松たか子段田安則生瀬勝久井上芳雄木場勝己
音楽/宇野誠一郎 美術/石井強司 照明/服部基 音響/秦大介 衣裳/前田文子 振付/井手茂太 歌唱指導/伊藤和美 演出助手/豊田めぐみ 舞台監督/三上司 プロデューサー/北村明子シス・カンパニー)、井上都(こまつ座