(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ゲルニカ」アーノルド

もうえらく舞台裏が混乱している印象のあるアーノルドシュワルツェネッガー改めアーノルドのシアタートップス公演である。作・演出の降板で、新作(「ミートボール」)を取りやめ、急遽過去の作品の再演となったようだが、それに気づいたのは、帰宅後、パンフを見ていてのこと。もちっと、アナウンスとか、周知の徹底が必要でしょうに。劇中に、「ミートボール云々」の台詞まであるものだから、ややこしいったらありゃしない。
これで芝居がつまらなかったら噴飯ものだけれど、まずまず満足のいくものでした。前回公演の「スイム」がめちゃくちゃピンポイントの面白さだったわたしは、「噂の男」、「イヌの日」、「ツグノフの森」と一作ごとに存在感の増していく水野顕子を眺めながら、一年という長いインターバルを、つのる思いで待ちわびていたわけで。
昼間は進学校で教鞭をとるやり手の高校教師。しかし、いったん学校を出ると、よからぬ仲間とよからぬ映像を交換しあうロクでもない輩だ。そんな主人公の所業を、恐喝するチンピラが現れる。彼は、道端で拾った奇妙な赤い箱に詰まった恐喝の材料で、教師を金銭的だけでなく、精神的にも追い込んでいく。身も心も疲れ切った教師は、窮鼠猫を噛むが如く、逆襲に転じるが。
現代の闇、社会の病巣に焦点を合わせた物語だが、具体的な内容にさほど新味があるわけではない。暗澹とした物語の流れが、クライマックスの一瞬、ネガがポジに変わる演出の面白さはあるものの、安易に神の存在が仄めかされたり、暴力的な場面には、既視感のようなものすら感じる。テーマは、むしろ物語を進めるための装置のようなものに過ぎないのではないかと思えるほどだ。
見どころはむしろディテール(場面)で、高校教師同士のやりとり、コンビニ店員の会話、チンピラの立ち話、おたくたちのトレード話など、この作品にはいくつかの固定的な場面があるのだが、物語の中では断片に過ぎないひとつひとつがなんとも濃密で、それが組み合わさるところにこのドラマの妙味がある。ひとつひとつで見せる登場人物たちのやりとりが、実に冴え渡っているのだ。
柿丸美智恵の達者さには舌を巻くし、水野顕子や市川訓睦の下世話な魅力も全開。一方、それとは対照的に、シリアスな場面の寺西麻利子がいいし、高橋周平の一瞬みせる生真面目さもいい。勿論、猪岐英人の達者さは、言うに及ばずである。
ただ、心配は主宰の武沢宏の降板で、「ミートボール」の脚本が出来なかったのが、その原因じゃないかと邪推している。次回公演の案内がないのも不安材料のひとつ。劇団員にも恵まれ、非常に面白いセンスをもった作家だと思うのだけれど。(110分)

■データ
階段に当日券を求める客の長い列ができてたソワレ/新宿THEATER/TOPS
8・8〜8・12
作・演出/武沢宏
出演/村上航 (猫のホテル)、市川訓睦、柿丸美智恵(毛皮族)、猪岐英人、水野顕子、高橋周平、宇賀神明広、寺西麻利子、桔川友嘉