(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「魔人現る」劇団鹿殺しオルタナティブズ vol.2

今月から来月にかけて、花のお江戸では、鹿殺し関連の公演が3本。そのトップを切るかたちで、駒場に登場したのが鹿殺しオルタナティブズ。前回の「山犬」が、ハートをきゅっと締めつける切なさで、わたくし的には非常にポイントが高い劇団の別働隊である。
深夜の地下鉄。呑み会の帰りか、はたまた残業か、同じスーパーで働く里見(奥田ワレタ)と飯田(オレノグラフィティ)は、西馬込行きの最終電車に乗っている。そこで偶然にも、かつて追っかけをやっていたロックスターの清澄(丸尾丸一郎)と遭遇。結婚間近でルンルン気分の里見は、懐かしさから清澄に往年の曲をリクエストし、清澄もそれに応える。飯田からも、かつては芸能界を目指し、清澄とライブハウスで共演したこともあるという述懐が漏れたり。
すると突然、電車に急ブレーキがかかり、車内放送でこの先の駅で人身事故があったことがアナウンスされる。つい先日も事故があったんだ、と飯田。やがて、電車は動き出すものの、停車駅は乗り合わせた三人のそれぞれの過去だった。
テーマは都市伝説。三人の乗客を呪いの世界への引きずりこむ謎の女を、KAKUTAの高山奈央子がホラー映画もかくやという怖さで演じている。女優陣でいえば、同じく客演のクロムの奥田ワレタも、ぎりぎりのテンションでヒロインを熱演。鹿殺しの男優陣と客演の女優陣の組み合わせは成功のようで、緊張感あふれる新鮮な空気を生み出している。
一方お話の方は、一途になればなるほど空回りしてしまう男のやるせない恋の顛末を描いて、なんとも切ないカタストロフへと導かれていく。三人の記憶の中に生きるある人物が歩んだ道のりが浮かび上がる、胸苦しい幕切れの余韻は、まさにこのユニットの持ち味といっていいだろう。
しかし、そのカタルシスを認めた上で、伏線の張り方や、ロジカルな構成は、これで十分だったかどうかという疑問はある。ドラマの勢いと役者の熱演で、ややねじ伏せられた感はあるが、電車女、不遇な男、猿の手の呪いがどう絡むかというあたりをもう少し作りこんでほしかったと思う。三人のエピソードが直列に繋がり、呪いの女との関係をも浮かび上がるカタルシスが、本作をさらに冴えたものにするであろうことは想像に難くない。自らの「山犬」(脚本は李)が、そのいいお手本である。
もうひとつ、最後列(F列)は、張り出し部分のせいで舞台上部が遮られ、一部物理的に見えない箇所があった。以前、ザムザ阿佐ヶ谷でも似たような経験があり、イライラさせられた。(両方とも早い時点で確保したチケットだった)次の公演では、そのあたりの配慮をぜひともお願いしたいものだ。(100分)

■データ
駒場にオープンした焼き鳥屋のちらしを駅出口で貰ったソワレ/こまばアゴラ劇場
作/オレノグラフィティ 演出/丸尾丸一郎
出演/山本聡司、奥田ワレタ(クロムモリブデン)、高山奈央子(KAKUTA)、オレノグラフィティ、丸尾丸一郎
音楽&WEB&フライヤー/李