(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ヤドカリバカンス」G.O.D system/桃色バカンス第一回公演

タイニィアリスの受付で木戸銭を払うと、引き換えにさし出されたのは、チケットではなく、なんとコミック。ファンジン仕様ながら、これまたよく出来ている。中身のコミックは、物語のプロローグにあたる内容で、最後には袋とじで後日談が収められている。ううむ、なかなか洒落ているじゃないですか。
主人公の市子(南佳那)は、試合中の怪我で休養中の女子プロレスラー。傷は癒えつつあるけれども、かつて親友に去られた経験が痛手になって、自分を見失ってしまっている。後輩のレスラーの奈月(原口美莉加)からは、軽蔑の眼差しで、辞めたら、とまで言われる始末。そんなある日、問題の親友有加里(鈴木佐和)が、彼女の所属する団体のスタッフとして彼女の前に戻ってくることになって。
と紹介してしまえば、かつて未熟な友情に傷ついたヒロインが、再生の道を見つけていくという自己回復の物語なのだけれど、それに不思議なシチュエーションを絡めたところが本作のミソ。女子レスラーのぱっとしない日常に、忽然と現れた3人の男たちが彼女と同居を決め込むのだ。最初は彼らが、不気味だったり、うざかったりする市子だが、次第に心を許すようになり、かけがえのない友人になっていく。そのあたりの人間の繋がりの形成過程を、おちゃらけを交えながら、しかしきめ細かく、じっくりと描いている。
幕切れに向けて、彼らがひとり、またひとりと欠けていくくだりも、しんみりとした寂しさを醸し出していていい。男たちの内面をも照らしながら、主人公の成長を上手く伝える効果があって、なかなか心憎い幕引きだ。神様プロデュースの本公演に較べるとやや軽量級ながら、今後の展開が楽しみなユニットである。(120分)

■データ
越してからのアリスはもしかして初めてかものマチネ/新宿タイニィアリス
8・2〜8・5
作・演出/増山千花
出演/南佳那、野口雄介(神様プロデュース)、鈴木佐和(C-promotion)、猪島涼介、原口美莉加、瀬尾卓也
音響/高橋真衣 照明/斉藤哲朗 舞台美術/松原優介 衣装/かとうあずさ 漫画/久留島彩 宣伝美術/小出晃永 制作/増山桃子 制作協力/荒川陽子 モデル/市川ともえ