(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「イチゴ畑で靴紐を結ぶ」あなピグモ捕獲団2007Summer

あなピグモ捕獲団は、1997年に福岡で結成され、20作を越える公演活動ののち、2004年に東京へと拠点を移す。わたしは初めてなのだが、主宰の福永郁央が構築する物語世界は、詩的、哲学的、不条理、理不尽を旨にするとのこと。
病院の庭とおぼしき場所に、白い車椅子が2台。それぞれ男女が座り、男には女の、女には男の看護人が車椅子を押している。ふたりは植物人間のように、静かに座ったままだ。突然、女性患者から話しかけられて驚く男性患者。しかし、看護人たちはふたりのコミュニケーションにまったく気づかない。彼らの繋がりは、テレパシーのようなもので、起こっているのは精神世界での出来事なのだろうか。やがて院内では、別の患者が行方不明になる事件が持ち上がる。患者たちの現実と精神世界を股にかけた冒険が始まる。
タイトルは、李下に冠を正さずと同義と思われるのだが、正直なところ、作品の内容とどういう繋がりがあるのか、判然としないところもある。映像で、表現は何らかの犠牲が伴うもの、というメッセージが流れるところから推察すると、「表現」とは患者たちのコミュニケーションであり、彼らの行動をイチゴ摘みと誤解するのは病院の看護人たちなのかもしれない。車椅子に腰掛ける肉体から、なかなか抜け出せない患者たち。しかし、ようやく抜け出せても、それを看護人たちは誤解しかできないもどかしさ。
白を基調とした衣装や舞台道具なども手伝い、繊細な表現が散りばめられ、ユーモアや動きのある場面もあるが、全体に静謐な世界を構築している。役者たちのしなやかな台詞回しや動きもあって、丹精こめてつくられている良さがあるが、欲を言えばもう少し力強さがあってもいいと思う。
それは、台詞のひとつひとつにも言えることで、言葉の持つ力を観客に投げかける面白さに欠けるきらいがあるのは惜しいところだ。劇団の持ついい雰囲気は評価したいが、もう少しアクの強さが前面に出れば、線の細い印象は一変すると思えるのだが。
似た傾向としては、わたしはなぜかひょっとこ乱舞を思い出したりもした。主催者のご挨拶が、大学ノートだかレポート用紙に書いたもののコピーで、まんま鴻上尚史なのも、なんか懐かしくて、笑えました。(95分)

■データ
梅雨のさなか降ったり止んだりのソワレ/中野スタジオあくとれ
7・27〜7・29
脚本・演出/福永郁央
出演/為平康規、石井亜矢、遠藤咲子、ますだようこ、長野慎也(本田ライダーズ)、貝谷聡(レイテストアポロ)、若林史子、吉田恵