(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「天国」ブラジル

次の公演は見逃せない、というのがここのところ演劇ファンの間での合言葉のようだったブラジル。いや、それくらいよかったですよね、前回の「恋人たち」。しかし、前評判が高いというのは、観客からの目も厳しくなるということで、一種の試金石のような今回の「天国」である。
僻地にあると思しき生産工場。ライン単位で工程が厳しく管理され、労働条件も決して良くない。近所に娯楽がないため、工場のそばの居酒屋には、今日も常連客の工員たちが集まっている。女将のマキ(山田佑美)は、閉店後の片付けをしていると、そこに一旦は帰ったはずの工員のサトウ(西山聡)が戻ってくる。唐突にマキを問い詰めるサトウ。彼は、マキが昔知っていたカズミという女だと決め付けるが、駆けつけた先輩の工員タケダ(本間剛)に、取り押さえられる。サトウはしっぽを巻いて立ち去るが、その場に残ったタケダは、これまた唐突にマキへプロポーズする。
翌日、女将に留守をまかされた常連客のカツラギ(若狭勝也)が店番をしていると、アキヤマを名乗る男(中川智明)が人捜しにやってくる。馴染みのトモノ(辰巳智秋)や、カツラギが同じラインで働くマコト(こいけけいこ)、新入りのキリュウ(山本了)らに、女の写真を見せるが、心当たりのある者はいなかった。しかし、彼の訪問は、予期せぬ波紋を巻き起こすことに。
いやぁ、よくここまで練り上げましたね、という物語。ひとりの悪女をめぐって、さまざまな男たちが不幸のどん底へと堕ちていく。その複雑な人間模様は、丁寧に織り上げられた複雑な柄タペストリーのよう。全体像が曖昧なまま、緊張感を終盤までしっかりとキープする筋の運びの巧妙さは、よく出来たミステリ劇を思わせ、ドラマの完成度としてひとつの到達点に達していると思う。
ただ、最初に書いたように、このレベルにまで達すると、こちらの期待値それなりのものがあるわけで、その登場人物たちを結ぶ複雑な絵柄に感心させられても、さらにもうひとつプラスアルファがほしいと思ってしまう。例えば、前回の「恋人たち」の最後の最後で見せたあの衝撃のような。厳しい注文であることは判っているが、ブラジルというユニットは、もうそういうものを期待されるポジションにまで来ていると思う。
役者的には、ブラジル陣も客演陣も達者で、気持ちいいくらいにスムースに絡んでいく。こいけけいこは、最初にキャスティングを見て、え、この人がブラジルに、という違和感があったが、なるほど、こういう使い方をしたかったのか、と感心。レベルの高い役者陣も、全員大健闘している。(110分)※22日まで。

■データ
佐世保バーガーを初めて食べた日のソワレ/中野ザ・ポケット
7・18〜7・22
作・演出/ブラジリィー・アン・山田
出演/辰巳智秋、西山聡、諌山幸治、若狭勝也(KAKUTA)、中川智明、山本了(同居人)、山田佑美(無機王)、こいけけいこ(リュカ.)、本間剛
照明/シバタユキエ 舞台監督/主侍知恵(HOZO) 舞台美術/仁平祐也(HOZO) 衣装/中西瑞美 宣伝美術/川本裕之 宣伝写真/名鹿祥史 票券管理/スギヤマヨウ(QuarterNote) 制作/池田智哉(feblabo)