(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「鉄の纏足」東京タンバリン

纏足(てんそく)とはかつての中国で、子どもの頃から布などを巻きつけ、女性の足の成長を阻害する風習のことで、小さい足の女性が美しいとされる価値観に基づいて行われていたものだが、付随して性的な目的や女性の歩行の自由を奪うこともその目的だったと言われる。
表面的には友好的な薄っぺらい人間関係で繋がったビデオ屋で働く店員たちの人間模様。就職までの腰掛けのつもりで採用された新人の店員。身勝手な店長や、一皮剥けば犬猿の仲の女店員たち、何を考えているか判らないベテランの店員らのペースに巻き込まれて、次第に追いつめられていく。身におぼえのないセクハラ事件で、我慢も飽和状態に達した彼は、ついにキレてしまい、ポケットからカッターナイフを取り出すが。
同僚が目をつけていたサンダルをちゃっかり自分が買い、サイズが合わないとこぼす女性。恋人からプレゼントされたシューズの履き心地が、いまひとつしっくりこない主人公。現代の纏足が、ひとつの人間関係の歪みを巻き起こし、やがて人々の悪意や不幸な偶然を招いていくというお話。
ビデオ屋の日常が表舞台だとすると、その裏側のように風変わりな図書館が描かれる。そこでは、利用者に替わって図書館員たちが本を読んでいく。どうやら、これは主人公の内宇宙らしいのだが、その関連性が希薄なので、単に面白い光景だけで終わっているのが惜しい。
さかんに挿入されるバスケットボールのシーンも、おそらくは登場人物の葛藤や、油断しているとめまぐるしく変化を遂げていく人間関係を象徴したものだと思うのだが、それもメインストーリーとの関連は非常に曖昧だ。すべてを観客に委ねる手法もありなのだろうが、面白い素材を出しながら、それを放置してしまう作劇法にわたしは大きな物足りなさをおぼえた。(120分)※東京公演は終了。11月16・17日に広島公演を予定。

■データ
マチネ/下北沢駅前劇場
6・2〜7・2
作・演出:高井浩子
出演/瓜生和成、森啓一郎、青山隆之、岡本考史、坂田恭子、島野温枝、ミギタ明日香、遠藤弘章、大湯純一、大田景子、塩入美喜子、田島冴香
舞台監督/松下清永+鴉屋、佐藤恵 照明/橋本剛(colore) 音響/中村嘉宏 舞台美術/杉山至+鴉屋