(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ワンマン・ショー」M&O plays + PPPP produce

シュール、不条理を倉持裕の強烈すぎる持ち味だとすると、去年夏のパルコ劇場の「開放弦」は、演出のG2演出と水野美紀ら(PPPP以外の)役者たちによって、それを中和する試みだったのかもしれない。しかし、中途半端に終わったあれは、どうみても失敗でしょう。であれば、不思議とテイストがシンクロした水野美紀を再び起用して、思い切りシュールな「ワンマン・ショー」を再演してみようという発想は、当然あってしかるべきものだったろう。
懸賞マニアの青井(小林高鹿)と妻のゆかり(水野美紀)、その隣人緑川(長谷川朝晴)と義理の姉みどり(小島聖)、そして青井が仕事で訪れた先の夫婦(近藤と内田慈)のカップルは、それぞれに繋がりがあるが、いずれもどこか不可解な謎と秘密を抱えている。自治体サービスのイエロー(ぼくもとさきこ)は、青井に思いを寄せており、懸賞応募にもアドバイスを与えていた。しかし彼女とのかかわりを持った3組の男女には不思議な接点があり、やがてそれが明らかになっていく。
舞台装置を効果的に使った場面転換で、テンポ良くいくつものシーンが次々に観客に提示されていく。しかし、それらの繋がりは、観客にはまったく伏せられている。そして、その好奇心が飽和点に達したあたりから、推理小説の伏線が次々と浮かび上がるように、ばらばらだったエピソードの繋がりが、観客に明らかにされていく。そう、岸田國士戯曲賞に輝いたこの「ワンマン・ショー」は、実は不条理一辺倒の作品ではないのだ。
物語の前半に一見無造作にばらまかれたパズルのピースが、終盤にかけてひとつひとつ収まるべき場所に収まっていくくだりは、ミステリの謎解きにも似た快感がある。そして、最後の最後に大きなネタが明かされ、「そうだったのか!」と観客は膝をうつことになるのだが、しかしそれは…。いやはや、ロジカルな収束を見せておきながら、油断した観客を最後に再び放り出す。なんとも強靭なしたたかさをもった作品だ。
プロローグの悪夢のような場面を、ふたたびエピローグで変奏してみせるあたりも、作者の人の悪さ全開で、愉快。全体をポップでカラフルなイメージが彩っており、それには水野美紀をはじめとする役者たちの存在感が大きくかかわっているが、その中で小島聖演じるみどりが抜群にいい。難しい役柄を個性的に演じ、これまで観た彼女の舞台で、ピカイチの好演だった。(110分)※17日までシアタートラム。その後、20日から26日まで各地を廻り、27日亀戸カメリアホールで千秋楽の予定。

■データ
ソワレ/三軒茶屋シアタートラム
6・7〜6・17(シアタートラム公演)
作・演出/倉持裕
キャスト/小島聖水野美紀長谷川朝晴、小林高鹿、ぼくもとさきこ、玉置孝匡、内田慈、近藤智行吉川純広
音楽/SAKEROCK