(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ヒトガタ」グリング第14回公演

ヒトガタとは、人の形に似せて作ったもの、すなわち人形である。昨年「虹」で、めでたく紀伊国屋ホール進出を果たしたグリングだが、今回は2002年に初進出のザ・スズナリで初演された出世作を、キャストを大幅に入れ替えての再演で、人形の頭(かしら)職人の家で行われる通夜の晩の物語である。
当主の母親が亡くなり、親族や親しいつきあいのある隣人たちが集まってきている。彼らの間では、母親の死でこれから一人暮らしとなってしまう当主の今後を慮って、あれこれ話が交わされる。親しい隣人は、長男との同居を奨めるが、実は彼と父親との間には死んだ次男をめぐっての確執があった。さらには、弟の死がトラウマとなっている長男は、子を持つことに恐れを抱き、妻の妊娠を周囲に告げることができずにいる。父親のカルチャースクールの教え子が焼香にやってきたことから、二人の関係を勘ぐった縁者たちは、大騒ぎとなる。
わたしは、「海賊」「虹」という近作しか観ていないが、グリング(というか青木豪)の持ち味は、基本的には人間関係の綾を濃やかに描く人情喜劇にあって、そこにさりげなく現代性(「海賊」でいえばサイコキラーの噂、「虹」でいえばエイズの話)が加味されている。新劇風ともいうべきユーモアとペーソスの味付けがしっかりなされているのも、大きな魅力のひとつだろう。
この「ヒトガタ」もその例に洩れない。通夜の晩に親族の間で巻き起こるドラマというのはある意味定番だと思うが、そこに生じた摩擦から、遥か昔の弟の死にまつわる真相が明らかになるという展開は今日的な含み(十代の自殺)もあって、絶妙。その後の父と子の和解も、心和む幕切れだ。
今回、とりわけ印象に残ったのは、やけに人懐こいキャラクターを演じた、長男の友人役の杉山文夫と、隣人の息子で当主への入門を空良の遠藤隆太のふたりで、それぞれ個性的で味のある役柄を醸しだしていたが、この舞台でそれを言い始めるときりがなく、耳が遠い叔母役の井出みな子や金髪で周囲をぶいぶい言わせる従兄妹の萩原利映も忘れ難い。劇団員、客演を含めて、役者陣も充実の舞台だ。(120分)※18日まで。

■データ
初日ソワレ/新宿THEATER/TOPS
6・6〜6・18
作・演出/青木豪
出演/中野英樹、弘中麻紀(ラッパ屋)、杉山文雄、石井英明(演劇集団円)、萩原利映、高橋理恵子(演劇集団円)、遠藤隆太、辻親八、井出みな子(演劇集団円)、歌川椎子
照明/清水利恭 照明オペレーター/葛生英之 美術/田中敏恵 舞台監督/筒井昭善 効果/青木タクヘイ 演出助手/黒川薫 制作/菊池八恵