(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「slow」少年社中リバイバルvol.2 (Drunkバージョン)

間もなく旗揚げから10周年を迎える少年社中。前回の「チャンドラ・ワークス」がいい感じに練れてきていたことから期待がつのる今回の「slow」は、リバイバル公演。初演は、2000年4月に劇研アトリエで上演されたもの。
アル中ばかりを収容する孤島の精神病院で起こった連続殺人事件。最初の死体は、推理作家の折原だった。彼は、ダイイングメッセージとおぼしき、病院の医師や入院患者のプロフィル写真を5枚残して、こときれていいた。ある事件の捜査のためにこの島にやってきていた刑事の綾辻は、自らの身分を隠して、事件の捜査にあたる。患者の山本は、綾辻の捜査を手助けするが、その過程で親友で入院患者の桐野の知られざる過去にふれることに。
イントロに推理作家折原の口上めいたものがあり、それが幕切れの種明かしで事件の重要な手がかりであったことが判る。いやもう、直球ど真ん中といいたくなるくらいの、孤島の連続殺人を扱った本格ミステリ真っ向勝負である。
しかし、察するに初演時の脚本は、未成熟だったのではないか。というのも、今回の再演でも、作品自体の完成度に、まだまだ成長の余地を感じたからだ。全体の印象は生硬で、その原因は謎解きのプロットの脆弱さが、どうしても目についてしまう。事件のメカニズムが、いまひとつ説得力を欠くのも、そのあたりに原因があるのではないかと思う。
役者たちの立ち位置を一瞬に入れ替える手法を多用するなど、緊張感を高める演出はそれなりに効果をあげているように思える。いささか無謀と思える発想も、練り上げ方や叙述のテクニック次第で、優れたミステリが出来上がることは、ミステリの歴史が証明しているところだ。そのあたりを念頭において物語の再構築し、いつかまた舞台にかけてもらいたいものだと思う。
なお、DrunkバージョンとSuspectバージョンの2バージョンがあったが、日程が短かったこともあって、後者を観られなかったのがなんとも残念だった。ずいぶんと違う出来映えだったという評判もあったので、気になっている。奥行きを表現した舞台装置が良かったことを記しておきたい。(90分)



■データ
ソワレ/中野ザ・ポケット
5・30〜6・3
作・演出/毛利亘宏
出演(Drunkバージョン)/本郷小次郎、金崎敬江、杉山未央、村木宏太郎、宮本行、タンタン、山川ありそ