(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「バラ咲く我が家にようこそ。」ジェットラグ・プロデュース

ジェットラグは、映像・舞台プロデューサーの阿部敏信(映画「ジューンブライド」プロデュース)が、舞台製作を行うため2006年に立ち上げ。作品ごとにスタッフを集めるシステムで、過去に『困惑』(作・演出:政岡泰志)と『ヒモのはなし』(作:つかこうへい、演出:吹上タツヒロ)を上演している。わたしは今回が初見だが、お目当ては東京デスロック多田淳之介の演出だ。
ゆえあって警察を退職し、警備会社へ再就職した初老の男小出(坂口芳貞)は、婚期も近い娘(町田マリー)と一軒家での二人暮し。娘には、ステディなボーイフレンド(大口兼悟)もいる。母親は、数年前にコンビニ強盗の事件に巻き込まれ亡くなっており、その母親が丹精した庭のバラもすっかり枯れてしまっている。
ある日、小出を会社の同僚(山本雅幸)が尋ねてくる。何かを憤っている様子の彼は、言いがかりに近い理由をあげ、小出に謝罪を要求した。弁明に対し聞く耳をもたない同僚ともみ合いになり、倒れて意識を失ってしまう小出。動揺した同僚は、こともあろう帰宅後自殺をしてしまう。同僚の葬式に足を運ぼうとする小出を、元同僚の警察官(夏目慎也)が訪ねてくる。小出は、彼に娘のボーイフレンドに関するちょっとした疑惑を調べてくれるように頼む。
幕があがって、出演者全員が思い思いの方向を向いて屹立する最初のシーンが印象的。これに、ラストシ−ンも呼応している。このちょっとした緊張感が、いかにも多田の演出を思わせるが、ここを除けば、よくありそうな犯罪被害者の家族をめぐる物語の域を出ていない。
子どもを交通事故で失ったショックから立ち直ることのできない夫婦が庭先を幾度か訪ねて来る展開がテーマ的には重要な筈だが、身勝手な小出の同僚や、小出を逆恨みをする同僚の妹、小出の善意につけこもうとする若い女をめぐる小ネタのエピソードの方が目だってしまう(負の要素ゆえだろう)のは、やや計算違いかもしれない。冒頭と幕切れのシーン以外に、多田演出を強く感じさせるものがなかったのも、残念だ。
役者では、坂口芳貞の堂々たる存在感が全体の柱になっているが、娘役の町田マリーの溌剌とした娘役がやはり光っている。物語の伏線に絡む役柄の大口兼悟の芝居に(とくに前半)もう少し含みがあれば、全体の絵柄はもっとくっきりしたものになるに違いないのだが。(90分)

■データ
初日ソワレ/新宿シアターサンモール
5・24〜5・27
作/牧田明宏(明日図鑑)
演出/多田淳之介(東京デスロック)
出演/坂口芳貞(文学座)、大口兼悟町田マリー毛皮族)、寺内亜矢子(ク・ナウカ)、吹上タツヒロ(トラッシュマスターズ)、夏目慎也(東京デスロック)、山本雅幸青年団) 本多裕香、甲衣都美、