(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「ドブの輝き」大人計画

松尾スズキがドクターストップで降板した大人計画の本公演。宮藤官九郎作・演出作、井口昇監督の映像作、松尾スズキ作・演出作の3本立てという変則的な内容に加えて、松尾のピンチヒッターが池田成志、さらにどっちが出るかは毎回前日に決定という平岩紙宮沢紗恵子ダブルキャスト、ついでに言えば降板の松尾も映像には出演というややこしさで、ある意味大人計画を象徴する猥雑感に満ち満ちている。
宮藤作の「涙事件」は、色物演歌のまぐれヒットで有名になったしょうもない歌手の死をめぐり、マネージャーが裁かれる法廷でのお話。裁判長や弁護士の暴走、次々と登場する奇天烈な証人たちという奇人変人のショーケースのような作品。
一方、松尾作の「アイドルを探せ」は、売れないアイドルとファンのすれ違い劇で、金にあかせてアイドルに会いたいファンと、お金ほしさに応じるアイドルのすれ違いのドラマを、自殺志願で樹海に迷い込んだ男がそれを回想し、そこに捨てられたゴミたちに語りかけるという形式で。
ひとつの公演で、宮藤 VS 松尾の構図を打ち出す試みは、確かに興味深い。互いにバッドテイストでありながら、その方向性が微妙に異なることを明らかにするために、今回のコンペティション形式(?)はきわめて有効だと思う。ただし、その結果、「ドブの輝き」が作品として成功しているかどうかは、ちょっと微妙だと思う。
つまり、毒と毒のぶつかり合いは相乗効果ではなく、散漫な印象に結びついているように思えるからだ。時間的な制約から、それぞれの作品が一時間あまりの駆け足にならざるをえず、それぞれが得意とする過剰なものを、十分に盛り込みきれていない。
映像作品を挟むというアイデア(その出来不出来は別として)も疑問で、数さえあれば良かろう的な、中途半端でお手軽なバラエティのように見えてしまう。いや、この混乱ぶりこそが面白いのだ、という開き直りも普段なら可能な筈だが、今回の中途半端な内容でそう言い切るのは、やはり苦しいだろう。
そういう意味で、松尾の降板という降って湧いたような不幸な事態は、本当に痛かったと思う。急遽代役に立った池田成志は善戦しているが、大人計画独特の病んだ空気の源である松尾の存在感とは、明らかに持ち味が異なる。主役不在となった舞台裏の混乱を想像すると、あまり酷評もできはいとは思うのだが。(140分)※6月3日まで。

■データ
ソワレ/下北沢本多劇場
5・10〜6・3
作・演出/宮藤官九郎(涙事件)、松尾スズキ(アイドルを探せ)
出演/阿部サダヲ池津祥子伊勢志摩顔田顔彦宍戸美和公宮崎吐夢猫背椿皆川猿時村杉蝉之介田村たがめ荒川良々近藤公園平岩紙宮沢紗恵子ダブルキャスト)、宮藤官九郎池田成志
※映像作品として井口昇監督・脚本の「えっくす」を間に上映(松尾スズキも出演)