(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

「トライアウト」jorro vol.5

ジョーロは作・演出の富田恭史を中心としたユニットで、2003年の「River Side」を皮切りに、平均すると年1作のペースで公演活動を続けてきている。わたしは初見だが、今回の「トライアウト」は、前回公演を引き継ぎ、ト書きだけの脚本をもとに、一定のルールの中で役者たちが即興でつくりあげるという手法をとっているようだ。
マスターが一人で切り盛りしている小さな呑み屋。常連の若者たちはビールを飲みながら、誰からとなくお互いに仲良しになり、店はアットホームな雰囲気も漂っている。あるとき、常連客同士のカップルが、結婚していながら、まだ式を挙げていないことが話題となり、仲間内でパーティーをやろうという話で盛り上がる。プロデューサーを買って出るもの、司会を引き受けるもの、そして海外出張から帰ってきたばかりの仲間も加わり、当日を迎える。
主宰者が語る、芝居は現実の劣化コピーではない、という考え方に立ち、だったらどう芝居を作るか、を実践する演劇手法のようだが、その困難は察して余りある。おそらくは、リハーサルを周到に行い、失敗と軌道修正を積み重ねた結果であろう。舞台上には、さりげなくも濃密な日常のドラマが、少しも澱むことなく、しかもナチュラルに繰り広げられていく。
どこまでが打ち合わせ済で、どこからがアドリブなのかは興味があるところだが、全編にわたりその臨場感は相当なもので、観客席にいても、その店の中の空気を共有している気分になる。物語のキーパースンは、影にまわってワルぶりを発揮していそうな省吾(河西祐介)で、パーティが終わって、花嫁の友人の純子(石澤彩美)を皆が口説こうとする場面の中心にいるのは実は彼で、彼と彼女の思惑が交錯するくだりはドキュメントの緊張感と面白さがある。
即興を多用する分、ドラマ性は希薄だけれども、幕切れにはきちんとクライマックスがあって、それがまた謎めいていて、観客にあれこれ考えさせる。(車に飛び込んだのは誰か、なぜ飛び込んだか、トイレの忘れ物の意味は、などなど)次回は、今秋。このユニットの活動は、マークしていきたい。(90分)

■データ
マチネ/王子小劇場
5・10〜5・14
作・演出/富田恭史
出演/畑雅之、林弥生、佐々木保、西島玄、鷲尾英彰、脇坂圭一郎、美館智範、河西裕介(国分寺大人倶楽部)、岩瀬亮、石澤彩美、しよな、新田めぐみ、廣野未樹(ハラホロシャングリラ)、米村亮太朗(ポツドール)
舞台監督/渡辺陽一 舞台美術/袴田長武(ハカマ団) 照明/工藤雅弘(Fantasista?ish) 音響/鏑木知宏(Sound Gimmick) 制作/佐藤秀香 WEB/長瀬哲規