(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝若い夫のすてきな微笑〟城山羊の会+三鷹市芸術文化センターpresents

わたしが芝居を観始めたのが80年代後半だから、川村毅率いる第三エロチカ全盛の時代には間に合っている筈だが、残念ながら舞台に接したかどうかの記憶はちょっと曖昧だ。しかし、劇団の看板のひとりで、あちこちからお声がかかっていた深浦加奈子をよその客演で見て、アクの強い存在感に引き付けられた記憶は強烈に焼きついている。
その深浦が、夫に先立たれたヒロインの久美子役を演じる〝若い夫のすてきな微笑〟。自分とは親子ほども歳の違う青年の添島(大沢健)と結婚したのはいいが、その男が実はしょうもない奴で、娘の瑞穂(初音映莉子)や、会社の同僚あかね(芹沢セリコ)を巻き込んで、とんでもない事態を招くことに。
城山羊(しろやぎ)の会は、CMディレクターで、その分野では数々のヒットを飛ばしている山内ケンジ(健司)による演劇ユニットで、2004年から活動しているらしい。村松利史のひとり芝居の脚本、演出を担当したのが、この方面に進出することになったきっかけとのことだが、今回が初見のわたしから見て、非常にオーソドックスなつくり。優しいけれど、人間としては思慮に欠け、ひたすら頼りない男が招く災厄を、淡々とした語り口で綴っていくのだが、その落ち着きぶりが正直物足りない。
終盤、母子で添島をなきものにしようという話になって、物語が急激に動き出し、そうかブラックコメディだったか、と期待が一瞬高まるが、やはり中道へとあと戻り。最後の現実と妄想が交錯する場面も、ドラマが曖昧に進行するせいか、しまりがないままなんとなく幕となってしまう。
全盛期に漂っていた緊張感とはまた違った落ち着きとしっとりとした芝居ぶりで観客を魅了する深浦や、瑞々しさあふれる初音らの好演があるが、結局はそれが空回りに終わってしまう。なんとも残念だ。(120分)※30日まで

■データ
ソワレ/三鷹市芸術文化センター星のホール
4・25〜4・30
作・演出/山内ケンジ
出演/深浦加奈子、大沢健、初音映莉子、金谷真由美、岡部たかし渡部友一郎古賀清、芹沢セリ子