(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝天国と地獄〟演劇キックプロデュース

巷では、ほぼ毛皮族と言われていたプロデュース公演、なるほど納得です。江本純子が、ほぼやりたい放題をやって、賑やかな舞台になった。もちろん、ギリシャ悲劇に材をとったジャック・オッフェンバックオペレッタの翻案なのだが、その移し変えぶりが放埓というか、無鉄砲というか。わたしが見たのは最終日ということで、その暴走ぶりはひとしおだったようで。
イントロは、現代。夫を殺し、死体処理をする4人の主婦が井戸端会議のようなやりとりを繰り広げる。それに続いて、狂言回しの世論(澤田育子)が登場、口上のようなものを述べたのちに、地獄の王子プルート(小林顕作)の企みで、オルフェ(江本純子)とユリディス(町田マリー)の夫婦関係が崩壊していくくだりを描く第一場(ティーバイの野原の場)、それに続いて、天国オリュンポスで神々の王ジュピターがことの次第を知り、地獄へと向かう第二場(オリュンポスの場)と、物語は繰り広げられていく。
ほぼ全裸で、悪乗り気味にがんばる江本純子毛皮族の甘い毒と、逸脱する物語をしっかりと引き締める小林プルートのアンサンブルで、加速していく物語は、ひたすら楽しい。幕間まで、即興のコントを披露するサービスぶりで、ほぼ3時間の公演に中だるみはなかった。
歌がまずいというマイナスの前評判があったが、個人的には気にならなかった。溌剌とした町田マリーのヒロインぶりや、生真面目さが透けて見える羽鳥名美子らの熱演がオペレッタ風のノリを盛り上げているし、笑いと芝居のバランスがとれた小林顕作のいい味を江本がうまく引き出していたと思う。狂言回しとして変幻自在に活躍する澤田育子のパワーも素晴らしかった。
ただ、クライマックスはややあっけない。ここで、プロローグにあった主婦たちの話とリンクしてもよかったのでは、と個人的には思った。まぁ、体力勝負のフレンチカンカン、ラインダンスの賑やかしで、なんとか逃げ切ったというところだろうか。観客をお祭り気分に巻き込んでくれた、楽しい一夜でした。(休憩15分を含む180分)

■データ
最終日ソワレ/新宿シアターアプル
4・12〜4・16
脚本・演出/江本純子
出演/町田マリー江本純子小林顕作(宇宙レコード)、澤田育子(拙者ムニエル)、田口トモロヲ金子清文、柿丸美智恵、羽鳥名美子、和倉義樹、高野ゆらこ、武田裕子、延増静美、平野由紀、高田郁恵、水町香菜恵赤坂恵梨、石田沙央合、菊地明香、久保田綾子、黒木絵美花、kekko、サチコ、城間真、鈴木陽子、田島SAYAKA、たにぐちいくこ、中林舞、梨木智香、福田卓志、細井里佳、細江正和