(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝チャンドラ・ワークス〟少年社中第18回公演

そこはかとなく早稲田の劇研を贔屓するわたしだが、実は少年社中は初めて。作・演出の毛利亘宏ら旗揚げメンバーは東京オレンジにいたが、98年に独立。以来、大隈講堂裏のアトリエ公演を重ねてきたが、2002年に劇研の引力圏を離れ、現在は中野ザ・ポケットや青山円形劇場クラスの中規模の劇場で公演を行っている。10周年を迎えるという今年も、さまざまな上演企画が控えているようだ。
その皮切りがこの新作「チャンドラ・ワークス」だが、舞台はアジアの小国インドラである。隣国との終わらない戦争を続けるこの国だが、三人の王子たちの末っ子チャンドラ(井俣太良)は、王室を出て、街で飛行機の工場チャンドラ・ワークスを経営している。ライバル社とのコンペではあるが、国の発注する新型の偵察機を作ることになり、そこに軍から派遣されてきたテスト・パイロットのサンサーラ(堀池直毅)がやってくる。リーダーシップをとるチャンドラ王子は張り切るが、今回作る飛行機は宇宙へ飛び出すという話を聞かされたサンサーラは、その実現性に疑問を呈する。そんなサンサーラも、次第に王子の夢と熱意にほだされていくが、しかし王子には、部下を死なせ、親友と袂を別つことになった過去があった。
先入観として少年社中という劇団に抱いていたイメージそのまま。まさにポジティブなテーマと、若い役者たちのエネルギッシュな動きが、溌剌とした空気を生んでいる元気な舞台だ。しかし、脚本と役者たちが一丸となった直球勝負でありながら、緩急のつけかたは巧妙で、ほぼ2時間の舞台に中だるみはない。
職工長のドウビィ(山川ありそ)と恋人シャンティ(大竹えり)の夫婦の物語があったり、中盤からかつての同僚アシュラム(岩田有民)が儲け役ともいうべき役柄で割り込んできたりと、エピソードの絡め方も絶妙。語り手を兼ねたクウ(加藤良子)という少女の不思議な存在感もいい。
欲を言えば、クライマックスがややあっけないのが残念だ。それと、加藤良子の前説は非常に雰囲気を盛り上げるのだけれど、その内容も含めて、脚本全体にはまだ未整理な部分(矛盾とまではいわないが)が残されているように思える。
若さといえば、荒削りのイメージがあるが、少年社中の芝居の完成度には、目を瞠るものがあると思う。とりわけ、照明の素晴らしさは特筆に値するもので、その美しさに息をのむ場面がいくつもあった。脚本、演出、役者たちもレベルが高いが、そのまとまりの良さに安住せずに、さらなる地平を目指す姿勢をくれぐれも失わないでほしいと思う。(120分)

■データ
ソワレ/中野ザ・ポケット
2・7〜2・12
作・演出/毛利亘宏
出演/井俣太良、大竹えり、岩田有民、堀池直毅、森大、廿浦裕介、加藤良子、長谷川太郎、杉山未央、山川ありそ
照明/斎藤真一郎(A.P.S.) 音楽/YODA Kenichi 衣装/村瀬夏夜 舞台監督/杣谷昌洋、佐藤 恵 音響/佐藤春平(SoundCube) 振付/右近貴子 スチール/金丸 圭