(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝原形質・印象〟ピンズ・ログ第3回公演

ピンズ・ログは、作・演出の平林亜季子が主宰する演劇ユニットで、年一作という着実なペースで舞台を重ねている。昨年3月の「ル坂の三兄弟」をタッチの差で見逃したわたしとしては、今回は早めから公演をチェックしておりました。〝原形質・印象〟は、そのピンズ・ログの第3回公演にあたるが、実は主宰者がピンズ・ログ以前に率いていたパノラミン遊園が上演したことのある作品らしく、いうなれば原点回帰(12年ぶりとか)の試みと見受けた。
静かに明けていく朝。岩に横たわっている生き物は、ネコ(森川佳紀)らしい。やってきたウミネコ(佐藤陽子)は、どうやらそのネコと顔見知りのようだ。そこにどこから来たのかナメクジ(熊埜御堂彩)が加わり、3匹の会話が始まる。ウミネコは、ちょっとした問題を起こして、一族の会議に呼び出しをくらっている。一方、ナメクジは、子どもができないという悩みを二匹に打ち明ける。そこに、金子(桜井稔)という人間の少年がふらりとやってきて。
哲学的に響くタイトルの意味は正直掴みかねるが、目の前で繰り広げられる御伽噺のようなシンプルな寓話的世界を観ていて、根源的な何かを連想した。例えば、生と死とか。金子という少年には、実は観客には伏せられている大きな秘密があるのだが、その生と死がこの物語のテーマだとすると、オチに使えそうな少年の秘密を比較的早い時点で観客に種明かしした理由も、なんとなく判ってくる。
とにかく、森川の飄々としたネコ、佐藤のやんちゃなウミネコが実に動物らしくて魅力的なのだが、それに輪をかけたようにチャコラという名のナメクジのプリミティヴな幼さが、このドラマの独特な雰囲気を決定づけている。(もしかして、熊埜御堂彩のナメクジ役は天然か?)
独特の散文的な世界を垣間見た快感のある舞台だが、聞くところによれば、先の2回の公演は、もっとドロドロした人間関係を描いた濃密なドラマだったという。次回は、そちらの世界もぜひ覗いてみたいものだと思う。(60分)

■データ
マチネ/下北沢OFF・OFFシアター
1・24〜1・28
作・演出/平林亜季子
出演/熊埜御堂彩、小山亜由子、桜井稔(ロスリスバーガー)、佐藤陽子(天然ロボット/SPARKO)、森川佳紀
音響/高塩顕 照明/シミズトモヒサ 舞台監督/吉川悦子 舞台美術/吉川悦子、平林亜季子