(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝甘い丘〟KAKUTA第18回公演

〝甘い丘〟というタイトルには、女性というメタファーがこめられていると思う。それもそこはかとなく性的な仄めかしとともに。KAKUTA2年ぶりの新作は、女性たちの群像劇である。
あかね(大枝佳織)とともえ(野澤爽子)の姉妹が経営する丘の上のサンダル工場。異臭が漂い、過酷な労働条件であることから、社会の吹き溜まりの様相を呈している。かの子(椿真由美)は、そこで賄い役として働くこととなった。彼女は、夫に逃げられたために家に居場所がなくなり、慣れない水商売の世界に入った。しかし、そこに馴染むことが出来ずに、横領の前科がある元OLとともに、この工場に流れてきたのだ。乱暴者やアル中、自閉症などなど、さまざまな社会的な不適応者たちの中で、かの子は生きる輝きを取り戻し、この工場に自分の居場所を見出していくが。
猫のホテルからの客演である村上をはじめとして、男優陣とて好演しているのだが、やはり女性の登場人物たちが背負う人生に重きが置かれた脚本である。柱になっているのは、かの子の自己回復の物語だが、それと同等の比重があるエピソードが、ほかにもいくつかある。
中でも、昨年の秋にブラジルの〝恋人たち〟への客演が素晴らしかった桑原裕子の存在感が、本作でもやはり際立っている。傍からみると、ろくでなしでしかない恋人との関係が、やがて彼女にとってかけがえのないものであることが浮かび上がらせる終盤の場面は切なく、美しい。
それらいくつものエピソードとともに、そこにさりげなく織り込まれている温もりが心地よい。女優であり、作・演出者である桑原裕子の充実がうかがえる舞台であった。(120分)

■データ
ソワレ/三軒茶屋シアタートラム
1・19〜1・28
作・演出/桑原裕子
出演/成清正紀、若狭勝也、川本裕之、原扶貴子、佐藤滋、高山奈央子、大枝佳織、野澤爽子、馬場恒行、桑原裕子、椿真由美(青年座)、村上航(猫のホテル)、三谷智子、高島雅羅
照明/西本彩(青年団)音響/島貫聡 舞台美術/鈴木健介(青年団)舞台監督/瀬川有生 演出助手/田村友佳 衣装/山崎留里子