(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ひかりごけ〟三条会

ひかりごけ〟は武田泰淳の有名な短篇小説で、遭難した漁船の乗組員が極限状況で人肉を食したという実際にあった事件をめぐる物語。関美能留率いる三条会は、この演目を十八番としているらしい。三条会の関は、一昨年の〝ニセS高原から〟を、蜻蛉玉の島林、五反田団の前田、ポツドールの三浦と競った劇団で、その際の評価も高かったのだが、千葉に構えるアトリエも地の利が悪く、わたしは今回がようやく初見である。
舞台上には、学校の教室がしつらえてあり、机と椅子が並んでいる。戸川純の〝蛹化の女〟にのって生徒たち(榊原毅、橋口久男、中村岳人、岡野暢)と先生(舟川晶子)が登場し、授業が始まる。しかし授業の光景は、いつの間にか船が難破して極限状況に陥った事件現場、さらには裁判の場面へとスライドし、食人事件の顛末、さらには裁判の模様が再現されていく。
坊主頭に詰襟の生徒たちの中を、ひとり赤いドレスで自在に動き回る大川潤子の存在感が圧倒的だ。彼女は、後半、舌鋒鋭く被告人に人間としての倫理を問う検事(裁判長?)と化し、船長の役を演じる生徒(榊原毅)を追いつめようとする。しかし、生徒は、人肉を食したことを認めながらも、自分を裁くのは、人肉を食べた者か、食べられた者によってのみ裁かれるべきだと、淡々としかし執拗に繰り返す。役者の肉体は躍動し、溌剌とした科白が行き交うこの場面は、なんとも印象的だ。
ひかりごけ〟は、小説の中の戯曲部分を劇団四季が上演したことでも知られる。しかし、この三条会の濃密な演劇的世界は独特で、開演後しばらくは怯むところもあるが、やがてテーマに対する不思議な訴求力が感じられるようになる。とりわけ、クライマックス付近で説明される、罪を犯したものの首の廻りに見えるというひかりごけのイメージは、いわく言い難い強烈なものがあった。(60分)
■データ
マチネ/下北沢ザ・スズナリ
1・18〜1・21
原作/武田泰淳 演出/関美能留
出演/大川潤子、舟川晶子、榊原毅、橋口久男、中村岳人、岡野暢
証明/佐野一敏 音響操作/立崎真紀子 宣伝美術/川向智紘 制作/久我晴子