(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝法王庁の避妊法〟ハイリンド Vol.3

飯島早苗・鈴木裕美の〝法王庁の避妊法〟(原作は篠田達明のノンフィクション)は、いうなれば彼女たちの代表作とでもいうべき本なのだろうが、〝ほどける呼吸〟や〝ミッドナイト・アップライト〟といった躍進するお嬢さん芸時代の自転車キンクリートに溺れた世代としては、どうもいまひとつ興味が湧かず、94年の初演以来あちこちで上演される機会も多い演目であるにもかかわらず、今回が初見。それを取り上げるのが話題のハイリンドとあれば、完成度の高い舞台という期待も高まって。
昭和初期の新潟のある病院。産婦人科の荻野先生(井原農)は、妊娠に重要な女性の排卵日はいつなのかという問題に悩んでいた。荻野は助手の古井(多根周作)とともに、患者たちを診ながら、日夜研究に励んでいたが、そんな彼にとって、妻のとめ(枝元萌)との出会いが、研究を大きく前進させるきっかけとなった。しかし、彼女の協力で有益なデータが得られたにもかかわらず、女体の不可解な法則性は依然謎だった。日々、妊娠や出産をめぐり、悩み、苦しむ女性たちを目の当たりのする荻野だったが、あるとき不妊で悩んでいた患者ハナ(はざまみゆき)を診るうちに、大きなヒントを掴む。
ハイリンドの役者たちの芝居は、評判どおりレベルが高く、客演の役者たちとのコラボレーションも堅実なまとまりを見せている。嬉しかったのは、久しぶりに見る大森美紀子で、大きなお腹をかかえ、豪快に笑う多産の女性を演じる元気な彼女の姿は、わたしがキャラメルボックスをよく観ていた頃とは隔世の感があり、とても懐かしかった。(ただし、チャン・リーメイ演じる新任の看護婦は、嫌われ役というのもあるだろうが、やや尖りすぎの感あり)
役者たちの好演と堅実な脚本の組み合わせは、高いレベルでの好結果を生んでいる。テンションの高い芝居は、長時間にわたると空回りしがちなものだが、それもない。これだけの芝居を見る機会はそうそうないが、個人的な好みから言わせてもらえば、まとまり過ぎからくる物足りなさのようなものも残った。まぁ、そこまで言うのが欲張りなのは、重々承知しているが。
ところで、ハイリンドは演出家を毎回外部からよんでいるようだが、今回の堅実な演出を担当した春芳は、なんと、かつて東京壱組にいた安藤亮子と知って、これまたびっくり。そうか、今は演出の分野でも活躍されているのですね。大谷亮介や余貴美子らと同じ舞台にたっていた時代の彼女の大ファンだったわたしとしては、嬉しい驚きでした。(135分)

■データ
ソワレ/下北沢「劇」小劇場
1.6〜1.14
作/飯島早苗、鈴木裕美 演出/春芳
出演/伊原農、枝元萌、多根周作、はざまみゆき、大森美紀子(演劇集団キャラメルボックス)、チャン・リーメイ、田中しげ美(愛情爆弾)、黒坂カズシ