(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝朧の森に棲む鬼〟劇団新感線

市川染五郎が新感線の舞台に立つのは、今回が5度目とのこと。そのすべてを観ているわけではないし、歌舞伎音痴なので染五郎のこともよく知らないのだが、今回は染五郎が自分の側に新感線をぐっとたぐり寄せた印象がある。それはもしかして新橋演舞場という舞台の雰囲気のせいもあるかもしれないのだが。
怪しげな雰囲気の森に迷い込んだライ(市川染五郎)と子分格のキンタ(阿部サダヲ)。森の魔物にそそのかされたライは、彼女らからもらったオボロの剣と得意の舌先で国王への道を歩み始める。その手はじめが、森で出会った将軍を殺し、その部下に成りすまして、国王(田山涼成)と側室のシキブ(高田聖子)に取り入ること。将軍の妻でもあった大臣のツナ(秋山菜津子)の目をも欺いたライは、悪人たちの首魁マダレ(古田新太)と手を結んで、策略の限りをつくし、王の座を手に入れる。しかし、そんな彼を転落の運命が待ちうけていた。
中島かずきの脚本は、まるでシェイクスピアのパッチワークのようである。ただし、古典のいいとこ取りという印象はあるが、悪のヒーローという設定が面白いし、それを演じる染五郎の悪玉キャラクターの造形が見事なので、観ていて飽きない。とりわけ、後半、クライマックスに向けて、ライが本性を剥きだしにしていくくだりの染五郎の熱演は、凄みがある。
終盤、水を使った見せ場も美しく、ファン・サービスも満点だが、その染五郎に新感線の役者たちがどう絡むかという点では、やや物足りなくもあった。むしろ堅実な演技で全編にわたって芝居を支える秋山菜津子や、もうけ役で観客の喝采を集めた阿部サダヲの活躍が目立ち、お馴染みの顔ぶれではかろうじて古田新太が存在感で染五郎に迫る場面がいくつかあったに留まった。
そういう意味で、新橋演舞場の正月公演としては成功といえるのだろう。しかし、新感線である必然性のようなものが大きく後退しているような寂しさがあるのも事実だ。(210分)

■データ
2007年1月11日/ソワレ新橋演舞場
1・2〜1・27(東京公演)
作/中島かずき 演出/いのうえひでのり
出演/市川染五郎阿部サダヲ秋山菜津子真木よう子、高田聖子、粟根まこと小須田康人田山涼成古田新太、ほか