(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝くらい(1月1日/午前0時/地下6mのナイトレンジャー)〟散歩道楽

2007年の1本目は、昨年、旧作からピックアップした7作を連続上演するという無謀なる(?)偉業「サンポジウム」を成し遂げた散歩道楽の新作。しかし、最後の「あなたがここにいてほしい」がつい11月に終わったばかりだというのに、間をほとんど措かず新作を上演しようたぁ、なかなか素晴らしい根性をしてますね、散歩道楽。(というか、主宰の太田善也。)
大晦日から元旦にかけてのマンガ喫茶を舞台にした一幕もの。世間は、一家団欒で年越し蕎麦を食べ、除夜の鐘でも聞いているであろうその頃、この店も寂しい若者たちで、そこそこ賑わっている。常連客数人に、飛び込みでやってきた遊び人風の男。さらには、妹を連れ戻そうとやってきた兄なんかもやってきて、店員はそれなりに忙しい。
登場する若者たちは、失恋したての店員(川原万季)も含めて、ひとりひとりがきちんと背景を感じさせる造形がされている。苦情を言うもの、店員に恋をする者、インチキのデスノートを売る者、買う者などなど。いずれも、他人との拘わりが、お世辞にも上手とはいえない人々ばかりだ。
その彼らが、交錯したり、行き違ったりしながら、ドラマを織りなしていくという定石は、太田善也の自家薬籠中のものだが、今回は彼らの間を軽やかに動き、狂言回しのように茶化す役割を、怪しい中国人(キムユス)に割り振っている。
若手公演と銘打たれているが、本公演でも重要な役を演じるこのキムユスが好演で、サンポジウムでは内向的な役が多かったように記憶しているが、この役柄はある種の殻を破ったような痛快さがあっていい。中盤までに大きく風呂敷を広げたドラマを結末へ向かわせるという重要な役割も、楽々こなす頼もしさだ。
冒頭の映画でいうタイトルバックのシーンでは、太田が率いるダンスインザダークスというダンシング・チームが新年に相応しく賑々しいダンスを披露してくれるホスピタリティも嬉しい。タイトルの〝くらい〟は、想像どおりに〝暗い〟に〝cry〟がかかっている。終盤、ある事件が起きて、紛糾してからの展開と収束がとりわけお見事。新春早々に、太田の群像劇の職人芸を堪能させてもらった。(100分)

■データ
2007年1月5日初日ソワレ/新宿御苑サンモールスタジオ
1・5〜1・10
※サンモールスタジオ2005年度最優秀団体賞受賞記念公演
作・演出/太田善也
出演/郷志郎、キムユス、植木まなぶ、松下ロボ、谷中田善規、川原万季、柿丸美智恵、安東桂吾(マォーティーズインディアン)、 中島広隆、飯野さくら、元尾裕介(カムカムミニキーナ)
ダンス/ダンスインザダークス(太田善也、辻川幸代(ニュアンサー)、佐野美幸、森脇由紀、中村真季子、柿弘美(メガロザ) 倉本恵理、橋場ふみえ、石川はるか、布施幾子、服部健太郎(タテヨコ企画)
声の出演/麻生美代子、廣田美智雄、武田力