(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝俺の屍を越えていけ〟王子小劇場プロデュース  

北の劇作家畑澤聖悟(渡辺源四郎商店、ex弘前劇場)の代表作といわれる作品を、時間堂の黒澤世莉が演出、出演は小劇場の曲者役者たちという企画である。王子小劇場は、この〝俺の屍(かばね)を越えていけ〟のプロデュースを皮切りに、畑澤聖悟の作品を3作とりあげ、連続公演を行うという。意欲的な試みとして非常に面白い。
地方の放送局の一室に集まった若手の職員が6名。年齢も、職種もバラバラ。アナウンサーもいれば、ディレクターもいて、営業もいる。出世意欲満々のものもいれば、組合活動に熱心なものもいる。しかし、彼らには、社長から出された課題があり、そういえばそれぞれ憂鬱そうな表情を浮かべている。やがて、座長役のディレクターがやってきて、話し合いが始まる。
リストラをテーマにしたディスカッション劇。しかし、机上の空論ではなく、ひとりひとりにとって愛着やら憎しみがある人々の生殺与奪の義務?を押し付けられた人々が味わう苦しみの物語である。判決を下せ、さもなくば己が退職、という究極の選択を迫られた彼らの議論は、否応なく白熱していくが。
この沈鬱にしかなりようのないドラマを、ユーモアを交えながらサスペンスフルな展開にしているのは、もちろん脚本の力もあるが、6人の役者たちの活躍が見逃せない。多少、目立ち具合の濃淡はあるが、それぞれの立場はもとより、その人柄までもを彫りを深く演じきったと評価していいだろう。(とりわけ、クロムモリブデンの森下が冴えている)
もちろん、密度の高い原作のドラマ進行は見事で、80分という短距離を一気に駆け抜けていくような痛快さがある。暗い曇がたれこめる中から、ぽっかりと青空をのぞかせるようなエンディングも鮮やか。先日リュカを見て、その個性的かつスタイリッシュな演出が一気に贔屓になった黒澤世莉だが、今回は脚本と役者の持ち味をストレートに引き出した印象だ。
ただし、最前列からでは見上げる位置にある舞台がいささか見にくかった。舞台と客席の距離をもう少しとるか、舞台の高さを調節してほしかった。
後日のことだが、ゆえあって2番手のいるかHotel〝月と牛の耳〟をスルーしてしまったのが残念無念。来年の本家渡辺源四郎商店の〝素振り〟は、なんとしても見たいものだ。

■データ
2006年12月23日マチネ/王子小劇場
12・20〜12・24
王子トリビュート001畑澤聖悟作品
作/畑澤聖悟 ( 渡辺源四郎商店 ) 演出/黒澤世莉 ( 時間堂 )
出演/葛木英(メタリック農家)、黒岩三佳(あひるなんちゃら)、こいけけいこ(リュカ.)、玉置玲央(柿喰う客)、原田紀行(reset-N)、森下亮(クロムモリブデン