(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝虹〟グリング第13回公演 10th Anniversary

青木豪の主宰するグリングだが、今年は文学座に〝エスペラント〜教師たちの修学旅行〟を書き下ろし、シス・カンパニーの〝獏のゆりかご〟では作・演出と、青木の外部活動が忙しかったせいか、前回の〝海賊〟からはほぼ一年ぶりの公演となる。1997年の旗揚げから数えて十周年の記念公演でもあるようだ。
山間の田舎町に佇む古い教会が舞台。神父(東憲司)を中心に、信者たちが協力してクリスマスのミサの準備をしている。吸殻の不注意から小火騒ぎが起きたのをきっかけに、近隣の駐車場で起きた車上荒らしの被害調査にお巡りさん(星耕介)が訪れたり、挙動不審な女性(藤本喜久子)が神父に面会を求めてやってきたりと、年の瀬の教会はなにやら騒がしい。
母親(井出みな子)との同居の問題を抱える神父の一家は、長兄(鈴木歩己)を亡くした悲しい過去がある。物語の前半は、挙動不審の女性が教会の敷地内にある泉付近でとっくに死んでいる兄の姿を見かけたと主張することから、一家それぞれの記憶に波紋が広がっていく。一方後半は、神父の妹である一家の長女(萩原利映)の物語となる。彼女と夫(杉山文雄)が抱えるある問題が浮上し、それに呼応するかのように信者夫妻(中野英樹と高橋理恵子)にも夫婦の危機が訪れる。
一番心配だったのは、紀伊国屋ホールの舞台だったけれども、無理なく広い空間を使いこなしていたので、まずはほっとした。今回も、ベタなコメディだけれどもウェットに流れないグリングの持ち味がしっかり出ていると思った。
ただ、前半と後半の間には、非日常へと越境する場面があって、それが小クライマックスのようになっている。それ自体は悪いことではないのだけれど、後半のHIVを巡って神父の妹夫婦が辿る夫婦愛の物語との間に、舞台構成上のバランスをやや欠くきらいがある。それと、うまく処理はしてあるのだが、信者夫妻の夫婦関係の破綻にまつわるエピソードも、ちょっと後味の悪さがあって、気になる観客もいるだろう。
そんな弱点がないではないが、個人的には十周年、紀伊国屋ホール進出という節目に、ここまで充実した舞台を見せてくれれば、十分に満足。とりわけ、東憲司の演じた神父役の温かみある役柄が印象に残った。カーテンコールの鳴り止まない拍手も頷けるものだったと思う。

■データ
2006年12月20日ソワレ/新宿紀伊国屋ホール
12・20〜12・24
作・演出/青木豪
出演/杉山文雄、萩原利映、鈴木歩己、中野英樹、藤本喜久子(無名塾)、高橋理恵子(演劇集団 円)、泉陽二、鬼頭典子(文学座)、星耕介(Oi-SCALE)、東憲司(劇団桟敷童子)、井出みな子(演劇集団 円)