(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝上田一家物語〟劇団上田

劇団上田は、2000年に作・演出家の地獄谷三番地と座長の江戸川卍丸を中心に結成された。先日の乞局の公演に、中心メンバーの地獄谷三番地が客演してるのを見かけたりして、じわじわ気になりはじめた。しかし、舞台の上の役者たちが、ちらしそのままで白Yシャツ、黒スパッツ、サングラスといういでたちだったので、びっくり(上田衣装と呼ぶらしい)。目線の演技とかは大丈夫なの、とツッコミを入れたくもなりましたが、ともあれ〝上田一家物語〟。
冒頭は、結婚式のシーン。記念写真を撮影するために、新郎とともに新婦の一家が整列するところに、ヤクザっぽい男たちが3人やってきて、自分達も集合写真に入ろうとする。どうやら、ヤクザたちと両親の間には何か秘密があるらしいのだが。
どこにでもいそうな四人家族(上田家の父、母、長女、長男)のホームドラマである。将棋好きの父と、父に従順に仕える母。とんちんかんなところのある恋人のプロポーズで結婚を悩む姉と、自分の将来に迷う気のいい弟。彼らが織りなす人間模様の中に、組長を殺されたヤクザたちが世代ギャップに悩みながら敵討ちをするエピソードが挟み込まれていく。
長女の縁談話がもちあがり、母親が自分たちの恋人時代を懐かしく思い返すことが、夫婦そして家族を見つめなおすきっかけとなっていく。家族の絆を描く手法にしては、時代遅れもいいところのベタなストーリーだが、意外にもその熱さゆえに素朴な心地よさを生んでいる。母親が美容院でタイムスリップしたり、長男に奇妙な友人がいたりという、奇矯になりがちなエピソードも、違和感なく埋め込まれているし、サングラス(四人家族全員がかけている)も、やがて気にならなくなる。
ただし、ヤクザのエピソードの絡め方はかなり強引で、幕切れが冒頭の場面にすんなりと繋がっているとは言い難い。コメディとはいえ、この物語の骨組みなのだから、おろそかにしてはまずいだろう。脚本には、もうひと工夫(大きな工夫だとは思うが)が必要だったと思う。(105分)

■データ
2006年12月9日ソワレ/新宿御苑サンモール・スタジオ
12・6〜12・10
作・演出/地獄谷三番地
出演/江戸川卍丸、荻原もみぢ、春日井一平、地獄谷三番地、花小路男D、細身慎之介、ザンヨウコ(危婦人)、石黒圭一郎(劇団コーヒー牛乳)、加藤敦(ホチキス)
照明/櫛田晃代 音響/佐藤春平(Sound Cube) 舞台監督/大槻めぐみ 舞台美術/袴田長武(ハカマ団) 衣裳/筋肉衣裳屋(森田陽平) 制作協力/塩田友克