(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝クローバー:冬〟ククルカンproject#001

前にも書いたが、月島のTEMPORARY CONTEMPORARY というのは、倉庫を改造したと思しきただのコンクリート打ちっぱなしのスペースだけれども、上演を重ねると、どこかシリーズの趣きをも醸しだす味のある会場でもある。といっても、ククルカンが今年1年を通して行った季節ごとの〝クローバー〟のプロジェクトで、わたしが足を運んだのは秋に続いて、今回の〝クローバー:冬〟が2度目なのだが。
心優しき3人兄弟(妹)たちの物語である。癌で余命いくばくもない旨の宣告を受けた兄(保村大和)。一度は嫁に行ったが、夫の浮気で実家に帰ってきている妹(中村真知子)。そして、ガールフレンドも出来ない不器用さだが兄思いの弟(三瓶大介)。確実に近づいてきている兄の死を意識しながら、それぞれに互いを思いやり、暮らす3人の日常は、今日も賑やか。
重層的にいくつものストーリーが展開し、月島帝国の興亡とでもいいたくなるような男たちが活気溢れるドラマを大きなスケールで繰り広げた〝クローバー:秋〟に較べて、この〝クローバー:冬〟はこじんまりとある家族の物語を織り上げていく。ひたすら兄に死を否定させようとする弟や、クールで気丈な妹。兄弟喧嘩さえ、死の足音を包み込んでしまうかのようなあたたかさがあって、しみじみと伝わってくる。ひとりひとりの心の動きを濃やかに描いているところがいい。
装置や物語をシンプルにすることによって、役者たちが紡ぎ出すうつろいゆくものの一瞬を、見事に抽出してみせる。カメラマンの青山裕企も舞台上にあがり、物語の途中の場面場面を切り取り、スライドにして写してみせるという手法の面白さも、それに一役かっている。(この手法は、まだまだ様々な可能性を孕んでいるように思う)
3人という形式に拘泥せず、白川直子(兄の主治医)、橋本恵一郎(妹の浮気亭主)、吉田久代(弟のガールフレンド候補)を一場面づつだが重要な役柄で登場させたのも、物語を窮屈なものから解放する効果があったように思った。どこかで観たと気になった妹役の中村真知子だが、そうか、くろいぬパレードへの客演(薄幸の女子高校生の役)だったか。がらりと違う役柄で、この物語にも花を添えている。(90分)

■データ
2006年11月7日ソワレ/月島TEMPORARY CONTEMPORARY
12・7〜12・10
作・演出/加東航
出演/三瓶大介、中村真知子、保村大和(藤プロダクション)、その他ククルカンの役者たち
写真/青山裕企(ユカイハンズ) 空間デザイン/伊藤暁建築設計事務所(+NEWEST+前崎紀人) 造形美術/西廣奏 ヘアメイク/福田泉