(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝恋人たち〟ブラジル

ブラジルは、双数姉妹、東京オレンジを経たブラジリィー・アン山田(作・演出)が、役者の辰巳智秋、制作の恒川稔英らとチームを組むユニット。わたしは、前回公演で〝ダイアナ〟と〝疚しい理由〟という短篇は観ている(どちらも良かったが、特に〝疚しい理由〟はミステリ劇としても秀逸)が、長丁場の芝居は今回の〝恋人たち〟が初めて。
ガソリンをかぶったり、睡眠薬をほうばったりと、心中を志願しながら、なかなか思いを遂げられないカップル。駅前で拾うようにアパートに連れ帰った洋子(桑原裕子)の強い自殺願望にひっぱられて、久保(辰巳智秋)はそれに付き合うように心中未遂(の一歩手前)を何度も繰り返す。そんな久保のアパートに、川原(櫻井智也)という男が訪ねてくるが、実は彼は洋子の夫で、彼女を執拗に連れ戻そうとする。やがて、洋子の友人のあかり(ミギタ明日香)が訪ねてきて、洋子の自殺願望の原因となったある事件が少しづつ明らかになっていくが。
洋子の自殺願望をとりまく悲劇的な状況を、コメディ・タッチの中で浮かび上がらせていく達者さに、ブラジルの力を感じる。終盤に露わになる洋子と久保のカップル、さらには夫の川原をめぐるシチュエーションは、まさに出口なしなのだ。笑いをちりばめた山田の一見緩そうに見えるがドラマの構築は、実は非常にタイトなのだと意識させられるのも、その終盤だ。
男性と女性の登場人物を、意地悪く描き分けるのも、おそらくは作家としては確信的なもので、奇矯で迷惑な女性陣に対して、風変わりなところはあってもどこか優しい男性陣という面白い対比の構図がある。飽和点に達した物語が着地点を探す最後のくだりには、喜劇が悲劇に一瞬にして転換するような驚きと激しさがあり、秀逸。前半の伏線が静かに浮かび上がるエピソードに、この作品の懐の深さを思い知らされる。
ただし、エピローグの一幕は、言わずもがなの感がなきにしも。このシーンは、いわば余韻を醸すための余白のようなもので、その一場面前で終わっても、十分ではなかったかと思うのだが。

■データ
2006年12月4日ソワレ/王子小劇場
11・29〜12・5
佐藤佐吉演劇祭参加作品
脚本・演出/ブラジリィー・アン・山田
出演/辰巳智秋、桑原裕子(KAKUTA)、櫻井智也(MCR)、瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ)、中川智明、ミギタ明日香(東京タンバリン)、本井博之(コマツ企画)、重実百合(クロムモリブデン)、異儀田夏葉