(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝夕景殺伐メロウ〟デス電所第15回公演

〝夕景殺伐メロウ〟という三題話のお題のようなタイトルが付けられたデス電所の新作である。デス電所は、1999年に作・演出の竹内佑を中心に近畿大学の同窓生たちが結成した劇団で、2002年あたりから東京公演も行っている。去年も〝音速漂流歌劇団〟が駅前劇場にかかったが行けず、わたしは今回が初見である。
中央やや奥に額縁が宙にうかぶフラットの舞台。その後に佇む妹のカナ(奥田ワレタ)と、彼女に話しかける姉のハナ(山村涼子)。どうやら妹はすでに死んでいるらしく、妹とのやりとりも姉の心の中でのことのようだ。
その姉のハナは、粒子という組織に属していて、組織は先生と呼ばれる人物からのメッセージに従い、いずれ太陽に呑み込まれてしまう地球の滅亡という運命を受け止め、リーダーのイガラシ(丸山英彦)の指揮のもと、さまざまな準備をしている。ある日、そこにひとりの男を捜して、黒衣の女ナガサワ(羽鳥名美子)がやってくる。
関西系の劇団にはこのところなぜか相性がいまひとつのわたしだけれど、これは面白かった。迫り来る終末観、おたくをめぐる考察、山の中の芝居作り、そして少女ハナの秘められた過去などなど。これらが、入れがわり、立ちかわり前面に出てきて、渾然一体となって舞台上を賑わすのだけれど、それが取り散らかしたままでは終わらない。猥雑さの中にも力強い物語の流れがしっかりと根底にあるのだ。
言葉の力を中心に組み立てられた物語は、時代性に敏感という側面もあって、かつての第三舞台を連想したりもする。マッチ売りの少女からの引用などは、視覚的にも美しく、もっとフィーチャーしてもいいくらいのアイデアだと思う。
黒のドレスをまとい、舞台上を激しく動き回る羽鳥名美子の圧倒的な存在感も素晴らしいし、奥田ワレタのたたえるリリシズムは、前にクロムモリブデンで観た彼女とは別人の印象だった。彼ら客演の力に頼っている部分があるものの、レギュラー演技陣のレベルも高いと見た。
徹底的に押してくる演出の中に、一瞬引きの叙情もあり、ハナの過去が明らかになっていくクライマックスに向けての疾走感もスリリングだ。2時間強という上演時間があっという間だった。和田俊輔の生演奏のクオリティの高さも、曲の良さともども、この劇団の魅力をさらに引き立てている。また次回も見たい。(130分)

■データ
2006年12月2日ソワレ/下北沢駅前劇場
12・2〜12・5(東京公演)
作・演出/竹内佑
出演/山村涼子、丸山英彦、米田晋平、田嶋杏子、豊田真吾、福田靖久、松下隆、竹内佑、奥田ワレタ(クロムモリブデン)、羽鳥名美子(毛皮族)、根田淳弘
音楽・演奏/和田俊輔