(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝食〟メタリック農家

ネタバレを見てしまうリスクはあるけれど、インターネット上の劇評には重宝することも少なくない。メタリック農家の〝食〟についても、初日の劇評で仕入れた低い位置での芝居が多いという前知識があったお蔭で、いい座席を選ぶことができた。しかし、芝居の出来に関しては、散々な評が多く、不安な気持ちを抱えて劇場に足を運ぶことになった。
〝食〟は、現在と過去(おそらく明治あたり)の物語を平行して描いていく。まつ子(石川ユリコ)が婚約者の中井出(伊藤一将)を伴い帰郷したのは、ここのところボケも進み、体力も衰え気味の祖母の千代(三科喜代)を心配してのことだった。祭りの日、問わず語りのように昔話を始める千代。かつてこの村は、雪がつもると孤立し、完全に自給自足の生活を送らなければならなかった。
若き日の千代(石川ユリコ・二役)は、ペチュラというこの地方の妖怪を家畜のように操り、雪かきなどをさせる仕事をしていた。そんなある日、彼女は川でペチュラ(伊藤一将・二役)に襲われ、溺れそうになる。しかし、千代はそのペチュラに藻吉と名づけ、次第に藻吉も千代になつき、他のペチュラとともに村の仕事をこなすようになっていく。ところが、原因不明の流行り病により、村に予期せぬ飢饉に襲われた。その日の食事にも事欠くようになった村人たちは、ペチュラを食肉にせざるをえない状況に追い込まれていく。
被差別の問題を絡め、食という人間の根源的な行為の意味を見つめるというテーマを、いかにもこの劇団らしい御伽噺に仕立てている。蔑まれる職業や奇形を暗示するペチュラなどで、被差別をことさら浮き彫りにするのは、舞台となる小さな村の閉塞性を浮かび上がらせるためだろうか。何度か役者の台詞にのぼる〝水槽〟というキーワードはやや消化不足だが、食というものの切実さを際立たせる舞台設定は、時代の選択も含めて成功している。
しかし、それでいてお手軽な感じがしてしまうのは、物語がストレート過ぎるからだろう。今回は、笑いの要素が後退しているのも、平坦な印象に拍車をかけているような気がする。子どもに聞かせる昔話であるならばそれで十分かもしれないが、舞台にそのまま載せては学芸会の乗りになってしまう。もう少し話がエスカレートしたり、突出した演出を見せるパートがあれば、全体にメリハリや余裕が出たの思うのだが、どうか。
ただし、初日の劇評に散見された客席からの見通しの悪さみたいなものは、ずいぶんと改善されていたのではないかと思う。中井出と藻吉の人格がダブるラストセーンもしっかり見て取ることができた。役者では、親族代表の竹井亮介がなかなかの貫禄ぶりで、全体をひきしめてした。主役の伊藤と石川も熱演で、いい味を出していたと思う。

■データ
2006年11月11日マチネ/王子小劇場
11・8〜11・12
佐藤佐吉演劇祭参加作品
脚本・演出/葛木英
出演/伊藤一将、石川ユリコ(拙者ムニエル)、三科喜代(ブルドッキングヘッドロック)、中島徹、古市海見子、岩田裕耳、竹井亮介(親族代表)、大川祐佳里、辻沢綾香、島田千穂、本田久恵、大内涼子、猿田モンキー、浦壁詔一、高見大和
舞台監督/主侍知恵 舞台美術/袴田長武(ハカマ団) 音響/中村嘉宏(atSound) 照明/工藤雅弘(Fantasista?ish)