(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ウーマンリブ先生〟ウーマンリブVol.10

今をときめくクドカンこと宮藤官九郎が率いるウーマンリブのVol.10。〝ウーマンリブ〟は、宮藤官九郎の作・演出の芝居を上演するプロジェクトのようなものだが、大人計画の役者たちがこぞって出演するので、大人計画の内部劇団のような位置づけだろうか。困ったことに、こちらの公演も本家に負けず劣らずのプラチナペーパーで、チケットの入手が非常に難しい。そういうこともあって、私は今回がようやくの初見。
作家であり、大学で女性史の教鞭もとっている夏祭冬助(松尾スズキ)は、雑誌の締め切りを目前に、編集者(宮藤官九郎)に温泉宿にカンヅメ状態にされている。しかし、締め切りは明朝だというのに、本人は小説などに見向きもせず、色っぽい愛人(猫背椿)を呼び寄せたり、教え子の女子大生たちを食事に誘ったり。そんな彼の前に、妙な男女(古田新太伊勢志摩)が現れ、フェミニズム系の文学賞に落選した知らせを届けにくる。不遜にも、彼らは夏祭の小説のダメな点をあげつらい、スランプの彼を精神的に追い込んでいく。そこに、妻(池津祥子)までが泥酔状態で現れ、夏祭の周囲は大混乱に。
と、ここまでがすごく長い。ところどころに、クドカンらしいブラックな笑いは散りばめられているが、やや古いタイプのシチュエーション・コメディ風な展開。あれれ、もしや最後までこのまま?、と思い始めた中盤過ぎ、書けない作家(松尾)が苦肉の策として、文学賞の審査員(古田)に代作を押しつけるあたりから、物語は空気を一変させる。
実はこの芝居には、とってつけたかのように思わせるプロローグ(ショッキングで面白い)があるのだけれど、後半に至って、なるほどあれはある人物の心象風景であったか、と納得。宮藤が書きたかったものについても、おおよそ得心がいった。
最後に主人公の成長(というか覚醒)にフィードバックさせるあたりも、それなりの展開だが、もしこの後半のストーリーがメインであるならば、もっと別の差配があってもいいのではないか、というのが正直な感想だ。中盤過ぎまでのお笑いも楽しいのだが、やはり後半は駆け足過ぎる。スピーディな展開は勿論いいのだが、もう少しきめ細かく観客をテーマに導くべきだと思う。まさか、コメディだから薄っぺらでもいいと考えていないとは思うが、人間のダークサイドに迫るのであれば、それなりの覚悟というものが必要だろう。
ただし、笑いはベタだが、役者たちの技量が高いので、構成のアンバランスなどがあっても、きちんと観客を楽しませるというスタンスを守るあたりはさすが。機会さえあれば(なかなか難しそうだが)、また観てみたいとは思う。(130分)

■データ
2006年11月2日ソワレ/東池袋サンシャイン劇場
11・2〜11・19
作・演出/宮藤官九郎
出演/松尾スズキ池津祥子伊勢志摩宍戸美和公猫背椿皆川猿時荒川良々平岩紙少路勇介星野源宮沢紗恵子宮藤官九郎古田新太
舞台監督/青木義博 照明/佐藤啓 音響/山口敏宏(Sound ConcRete) 舞台美術/加藤ちか 音楽/富澤タク、星野源 衣装/戸田京子 ヘアメイク/大和田一美 振付/八反田リコ