(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝アベベのベ〟チャリT企画

チャリT企画は早稲田の劇研出身の劇団で、観るのは今回が初めてだけれども、双数姉妹の〝君はヲロチ〟に客演していた伊藤伸太朗と松本大卒の達者さが印象に残っている。〝アベベのベ〟は、2011年の近未来が舞台だが、つい先日新総理となった安倍晋三の前途不安な旅立ちを揶揄しようという試みか。スライド映写の字幕で、新総理の就任を北朝鮮が核実験で祝福、と出たのは、まさに最悪の北朝鮮情勢の中で、笑えないのに笑ってしまい、困った。
奥行きのない、横に長い舞台は、あるコンビニの事務室。バイトの従業員たちが、左右に忙しく動き回り、交替で休憩をとりにきたりする場所でもある。店長候補(松本大卒)は、烏合の衆のような店員たちを管理し、コンビニをきちんと切り盛りしようとする。しかし、そんな彼をシフトのドタキャンや店員が逮捕される事件が起きるなど、トラブルが次々と襲い、店はしっちゃかめっちゃかの状態に陥る。
米田弥央や高見靖二らが演じる店員たちのやりとりもテンポがよく、コンビニの舞台裏を見せるコメディとしては、それなりに完成しているものだと思う。ただ、これが現在日本の状況を憂えての政治風刺劇だというのならば、やや中身がストレート過ぎる。
若者たちの日常のやりとりにまぶして、日本の未来をきちんと心配しましょうと真っ直ぐに訴えている。そういう真面目さは、非常に好感がもてるし、若者層の政治への無関心さや、政治家がうったえるスローガンの空しさも、きちんと織り込まれている。しかし、劇中のメッセージは、まっすぐであるがゆえに予定調和の域を出ないもどかしさがあるのも事実。
終盤でクローズアップされる改憲をめぐる国民投票の話も、議論がやや類型的に思えて、物足りない。考えなくなった日本人を嗤うには、もっと辛辣にやらなければ。この劇団、芝居の素地がしっかりしているのだから、もう少し毒を盛る冒険があってもいいのではないか。(90分)

■データ
2006.10.16ソワレ/王子小劇場
10・13〜10・17
佐藤佐吉演劇祭参加作品
作・演出/楢原 拓 (chari-T)
出演/松本大卒、伊藤伸太朗、内山奈々、高見靖二、米田弥央(カムカムミニキーナ)、三枝貴志(バジリコ・F・バジオ)、伊瀬尚子、熊野善啓、竹内洋介、楢原拓
音楽/YODA Kenichi 舞台監督/甲賀亮 照明/伊藤孝(ART CORE design) 音響/島貫聡 舞台装置/高見S二