(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝廻罠(わたみ)〟劇団乞局第11回公演

正直言うと、かなりの衝撃でした、初めての乞局(こつぼね)。どれくらいかというと、ポツドールの〝夢の城〟と同じくらい。方向性が違うけど、という断りをつい入れたくなるが、いやいや実は案外と近い距離にいるんじゃないでしょうか、この両者。人間の本性に迫っていくドラマという意味で。ふとそんな思いにとらわれた〝廻罠〟である。
舞台の上には、家庭ごみが散乱している。当日配られたパンフレットによれば、ここは都内某所の地下に広がる下水道で、そこには浮浪者のように暮らす人々がいる。本人の意志に反してこの地下洞に置き去りにされた彼らは、日々出口を求めて暗闇の中を彷徨い歩いている。時々見回りにやってくる役人とおぼしき連中は、このうち捨てられた空間にまた新たな住人を放り投げていく。
観客には、そもそもここはどういう場所なのか、という素朴な疑問があるだろう。しかし、それは最後の最後まで靄がかかったままだし、物語が進むにつれて、それはどうでもいいことのように思えてくる。むしろ不安な状況に措かれた人間たちが、どう行動するかということに関心が移っていくからだ。
彼らの中にもリーダーシップをとる者がいて、はじめは班に分かれて統率のとれた行動をとっているが、極限に近づくにつれて、ジレンマが彼らをさまざまな形で蝕んでいく。エゴをむき出しにする者、精神状態が不安定になる者などなど。一方では、悟りのようなものを開いている人物もおり、それが識者としてリスペクトを集めていたりするのがおかしい。
物語は、中盤、彼らをこういう状況に陥れた役人のひとりが地下世界に転落してくるという大きな動きがあり、そこから急激に加速していく。グループは崩壊し、狂気の境を踏み越えてしまう者も出てくる。識者は出口を見つけたと告げるが、それすらも彼らの中に巻き起こった狂騒が呑みこんでしまう。そういう彼らに対し、結局のところ出口を探すという日常に馴れてしまい、そこに居心地の良さを見つけてしまったのだろう、と言い放つ識者の言葉がなんとも印象的だ。
都心の地下にうち捨てられた場所という都市伝説に着目し、そこにナスティなドラマを構築し、人間の本質をあぶりだそうとする試みは面白いし、ある程度成功していると思う。ただし、舞台は虚構の産物とはいえ、かなり生理的な嫌悪感を刺激する。わたしは、役者たちが汗や尿を保管し、それで水分補給をする場面がしんどかった。最後のカーテンコールで、役者たちが観客に向かって頭を下げ、顔をあげないまま舞台袖にさがる姿が、暗く湿った余韻を残し、忘れ難い。

■データ
2006.10.9ソワレ/王子小劇場 
10・4〜10・9
佐藤佐吉演劇祭参加作品
脚本・演出/下西啓正
出演/秋吉孝倫、地獄谷三番地(劇団上田)、下西啓正、仗桐安(RONNIE ROCKET)、田中則生、三橋良平、石井汐、五十嵐操、酒井純、津田湘子(経済とH)、古川祐子
舞台美術/袴田 長武(ハカマ団)、照明/谷垣敦子、音響効果/平井隆史(末広寿司)、演出助手/田中兄弟(田中則生・元一)、舞台監督/岩田和明、衣装/中西瑞美、宣伝美術/石井淳子