(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝パチンコ&ダンス〟散歩道楽

劇団としては究極の苦行に近い大事業であろう7か月間の7演目連続公演を、〝サンポジウム〟という軽やかなネーミングで行っているさ中の散歩道楽。先月の〝スペインの母A〟を、キャンセル待ちの滑り込みで観て、これはいいかも、と思い、すでに後半戦に入っている残りの2公演を観てみようという気になった。〝パチンコ&ダンス〟は、〝サンポジウム〟の最後から2番目の作品で、2002年の第10回公演を、演出、キャスティングを入れ替えての再演である。
開場時刻の直前にサンモールスタジオの受付に着くと、なんと〝スペインの母A〟に出演なさっていた女優さんお二人のお出迎え。おお、なんとついていることよ、とひとり悦に入りながら、会場へ。最前列の座席よりも一段高くなった舞台のうえには、町のダンス・スタジオの一室。といっても、実際にスタジオに使っている部屋は別にあるという設定で、ここはスタジオ利用者のいわば更衣室兼控え室になっている。
商店街やらご近所の仲間が、ダンスの発表会の練習に三々五々集まってくる。しかし、本番を一週間後に控えた今日は、なんとなく様子のおかしい人が多い。三週間のひとり旅から帰ってきた女性は、旅行前と性格が豹変しているし、朝起きて鏡を見たら昨日までと違う自分がいたと思いこんでいる青年もいる。酒びたりで先生がちっともレッスンに来てくれないことや、ダンスはプロ並みと偽り実は初心者というパチンコ屋の店員が参加したことで、仲間たちの間にどことなく波風が立ち始める。
出てくる、出てくる。舞台のキャパシティを越えそうな登場人物たちがなんとも賑やかだ。女優陣のレオタードへの着替えの場面などもあったりして、もう舞台上は熱気がムンムン。よそからの客演を仰いでいるようだが、先月の女優さん3人は、さすがに今回は出演していないわけだから、劇団の人材もなかなか層が厚いと見うけられる。
一方、中身の方も町内会で繰り広げられる人情喜劇と思いきや、シュールな設定が飛び出し、それが次第次第にテーマとシンクロしていく過程は、大いに見ごたえがある。人は変わることができるか、というメインテーマは、世の中のほとんどの人が一度は抱き、そしてその奥深さゆえに苦しむ命題だろう。本作の中でも、いくつかのケーススタディが提示されるが、それを押し付けるではなく、柔らかく観客に向けて投げかけるような芝居のスタンスが心地よい。
観客が冒頭につきつけられり不条理なシチュエーションは、後半に至って合理的な説明がなされるものもあれば、そのままのものもある。しかし、物語として不整合な印象はなく、最後はきっちりとエンディングも決まって、ほのぼのした味わいと真摯なテーマが、心地よい割合で同居している。(115分)

■データ
2006年10月8日ソワレ/新宿サンモールスタジオ
10・6〜10・9
作/太田善也、演出/森下雄樹 (ベイビーズ・ゲリラ)
出演/川原万季、竹原千恵、郷志郎、キムユス、高松潤(青年座)、原扶貴子(KAKUTA)、國重直也(イキウメ)、中村真紀子、岡崎貴宏(アンティークス)、朝日貴之、黒崎照(青年座)、平田暁子、荻野貴美子、石松太一
照明/森山実香、音響/高潮顕、音響オペレーター/原陽子、舞台美術/吉川悦子、舞台監督/橋場ふみえ、演出助手/野口誠一、宣伝美術/高橋良二