(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝漂う電球〟オリガト・プラスティコVOL.3

多忙を極めている(であろう)ケラの新しい作品。オリガト・プラスティコは、ケラが元東京乾電池の女優広岡由里子と組んでのユニットで、数年に1度という緩いペースでプロデュース公演を行っている。作品は、最初はケラ、2回目は岩松了ときて、3回目にあたる今回はウディ・アレンの本邦初上演作品を取り上げている。
40年代とおぼしきアメリカ、ブルックリンのアパートで暮らす貧しい一家の物語である。引き篭りの少年ポール(岡田義徳)は、知能指数は高いが集団生活が苦手で、自分の部屋で手品の練習ばかりしている。父親のマックス(伊藤正之)は外に若い恋人(町田マリー)をつくり、母親のエニッド(広岡由里子)は生活に疲れ、弟のスティーブ(高橋一生)はそんな環境にうんざりして家を出る機会を窺っているといった具合で、一家はばらばら。そんなある日、知人の紹介で、芸能エージェントのジェリー(渡辺いっけい)と知り合ったエニッドは、一家の未来にひと筋の光明を見出す。ジェリーを招き、家でポールの手品を売り込み、芸能界にデビューさせようと彼女は目論むが。
ウディ・アレンをコメディ作家と決めつけるつもりはないが、漠然とニール・サイモンあたりに通じるウェルメイド・プレイを思い浮かべていたわたしとしては、観終えたあとに違和感のようなものが残った。しかし、ケラが今回の上演でテネシー・ウィリアムズの「ガラスの動物園」か本作かで最後まで迷ったという噂を聞いて、この〝漂う電球〟を取り上げた理由が、なんとなく判ったような気がした。なるほど、ケラは家族という関係を叙情的に描いた作品を演りたかったのか。
ただし、それは必ずしも成功していないように思える。同じ家に暮らしながらまったく別の方角に向かって歩いている家族たちが不協和音を響かせる前半の流れは判るし、そして後半、エージェントを招いて母親が心に束の間の青春を甦らせるくだりもいい。ところが、それまでコメディタッチで積み上げてきた物語を叙情に転換するべきエンディングがあれでは、どうにも中途半端だ。ハイライトともいうべきポールが操る漂う電球のマジックが、家族の不幸と何らかの対比をみせなければ、あの場面は失敗ないのではないか。
初日ということもあって台詞のとちりや段取りの悪さはあったが、俳優陣は概ねいい芝居をしていた。それだけに、着地をしくじった幕切れがなんとも惜しまれる。(休憩15分を含む150分)
■ データ
2006年9月28日ソワレ/下北沢本多劇場
9・28〜10・9(東京)
脚本/ウディ・アレン、 演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ、出演/岡田義徳高橋一生、伊藤正之、広岡由里子町田マリー渡辺いっけい