(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝いえ、これは実験です。〟東京ネジ第6回公演

熱心な演劇ファンではないのだが、海外の経験が豊富な友人が、東京は世界一演劇が盛んな町だと口癖のように言う。都内いたるところに劇場があるし、いつもたくさんの芝居がかかっている、と。そう言われればそうなのかな、という気になるけれど、なるほどそんな演劇の町東京をめざして地方からやってくる劇団があるのも事実だ。先日のクロムモリブデンは大阪から、そして今日とりあげる東京ネジは盛岡からやってきた劇団のようだ。
〝いえ、これは実験です。〟は、上京後、劇団名を東京ネジと改めてから(正確にはリユニオンか)6回目の公演らしいが、この演目は劇団の旗揚げのときの作品で、かつての地元盛岡では高校演劇でも上演されるなど、すでにスタンダード化しているらしい。舞台は、ある家の茶の間。どうやら父親のいない家庭らしく、母親と四人の子どもたち一家が暮らしている。長女は成人しているようだが、どこか母親によそよそしいところもあって、血が繫がっていないことが推察される。他の3人との血縁の有無は判らないが、ともかく一家は仲良く毎日を送っている。
しかし、この一家には、奇妙な習慣がある。食事の前には、必ずテーブル下にある土が盛り上がった畑のような場所(そもそこ、茶の間に畑があること自体、相当に変だが)に、全員で水をかけるのだ。まるで、植物が芽を出すのを楽しみにしているように。ある日、三女が楽しみにしていた学級参観を、用事が重なり、母親(佐々木なふみ)はすっぽかしてしまう。母親は言い訳をするが、三女はすねるばかり。忙しい母親が、どうすれば子どもたちとの約束を守れるのか。三女の無邪気な提案から、子どもたちは、とっぴょうしもない相談を始めるが。
まるで、日曜夕方の〝サザエさん〟に登場するような平和な家庭の日常が舞台の上に出現している。父親をめぐって、さる事情はあるようだが、一家はいたって順風満帆。長女(宮下舞)を筆頭に、次女(佐々木香与子)、長男(小林篤)、そして小学校低学年の三女(宮嶋美子)までを大人の役者たちが演じるのは、ちょっと無理があるかとも思うのだが、意外と違和感がない。
観客の意表をついたエンディングへの伏線も怠りなく、食事前の儀式や、やたら植物の多い茶の間、隣人の主婦(佐々木富貴子)がミドリ亀の増やし方を繰り返し講釈するなど、万全の体制。ブラックな幕切れは、そこまでのコメディタッチとの対比があって、ちょっと鳥肌がたちました。子どもたちが、一様にイノセントで、平然と三女の思いつきを実行に移すところもコワイ。
初めて観た東京ネジは、ウェルメイドな芝居つくりと、ショッキングな仕掛けという組み合わせで、独自のカラーを見せてくれたが、他にはどんな持ち札があるのだろうか。見終えて、さっそく興味が湧いてきた。

■データ
2006年9月22日マチネ/下北沢OFFOFFシアター
9・21〜9・24
作/柏木史江、脚色/佐々木なふみ、演出/佐々木香与子
出演/佐々木香与子、佐々木なふみ、佐々木富貴子、宮下舞、小林篤(天才ホテル)、宮嶋美子(風琴工房)、細身慎之介(劇団上田)