(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ヘ音記号の果物〟蜻蛉玉第12回公演

ちょっとへなちょこ(失礼!)な、でも印象的な手書き文字によるチラシがいつも目にとまる蜻蛉玉。2001年に脚本・演出の島林愛を中心に、桜美林大学の学生たちにより旗揚げされたらしい。女性中心の劇団員で構成され、とりあげられるテーマも女性にまつわるものが多く、廃校の体育館や廊下、野外などのユニークな場所での公演を好むもこの劇団のひとつのカラーのようだ。わたしは、昨年の「ニセS高原から@アゴラ劇場」への参加で、(結局は観られなかったが)注目するようになった。
さて、JRの中野と高円寺の間にある会場のテルプシコールは、元は学校の講堂だったような場所で、スペースの半分が舞台、残りに階段状の観客席がしつらえられている。隅にはグランドピアノ、それから壁面には大きな鏡が貼ってあって、自然光が差し込む小さな窓もある。
開演前、グランドピアノの下に横たわる男性(安村典久)。はじまると、そこに妊婦(島林愛)がやってくる。どうやら、ここは妊婦のためのカルチャー・スクールのような場所らしい。男性が起き上がり、妊婦が「先生、いらしたんですね」と驚く。やがて、お腹の大きさはまちまちながら、続々と妊婦たち(神林裕美、打田智春、佐藤恵)がやってくる。
スクールでは、生まれてくる子の情操教育の第一歩として絵本を読んだり、奇妙な体操をしたり。先生を囲んでのディスカッション風のやりとりもあって、妊婦相互のコミュニケーションを通じて、それぞれの人となりや異なる価値観が次第に明らかになっていく。
妊娠期というものが女性にとってどういう時期であるかは、男性にとっては永遠の謎なのだが、肉体的にさまざまなことに敏感になり、また精神的にも複雑なものであることは、おおよそ想像ができる。ましてや、社会的にもプラス、マイナスさまざまな要因があって、意識的にせよ、無意識にせよ、潜在的な自分の中の女性が浮上してくる時期でもあるのだろう。
例えば、前半、「マッチ売りの少女」を通じて演じられるパフォーマンスや、後半の体操からユニークなダンスへとシフトしていく展開は、女性という存在を体で表現した本作のハイライトであるが、喫煙をめぐってヒートアップする罵りあいや、妊婦のひとりが先生を挑発する場面などとの対比が、聖と俗のコントラストのようなものを生んでいて、とても面白く映る。妊婦ひとりひとりの個性を描き分けている達者さも手伝っているのだろうが、テーマに対する切り口の豊富さを見せつけられた印象だ。
演出の島林は無自覚だったようだが、結構大きな鏡も、意外な効果をあげている。島林の前説も、チェルフィッチュを連想させて(すぐに狙いはわかった)面白かった。

◆データ
2006年9月16日マチネ/中野テルプシコール
9・15〜9・17
作・演出/島林愛、振り付け/白神ももこ(モモンガ・コンプレックス)、舞台監督/藤本志穂(うなぎ計画)