(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝山犬〟劇団鹿殺しオルタナティブズVol.1

芝居好きの知人がわざわざ「どう思うか?」と訊くので、よほど既存の枠から外れているのだろうと思っていた劇団鹿殺し。前回、タイニィアリスでの〝SALOMEEEEEEE!!!〟は残念ながら見られなかったが、早くも次回公演。しかし、今回の〝山犬〟は、どうやら劇団名にオルタナティブがつく別働隊のようだ。
小学校を卒業して以来10年ぶりとなる同窓会。当時、仲良しグループだった小薮由紀子(菜月ちょび)、林梅太郎(鬼頭真也動物電気)、薬師丸弘樹(オレノグラフィティ)の3人は、その日の再会を楽しみにしていた。ただひとつ、不可解だったのは、事前にそれぞれの手許にとどいた手紙で、そこには同窓会の晩に卒業のときに埋めたタイムカプセルを掘り起こそう、と書かれていた。差出人は当時のクラスメートを名乗っているが、その人物について3人にはしっかりとした記憶がない。
そして同窓会の日。久しぶりに故郷で再会し、当時を懐かしく思い出す3人。そんな時、招待状の差出人からの電話で、学校の裏に呼び出され、そこに埋められたタイムカプセルを掘り起こすことになる。しかし、カプセルの中からは、懐かしい想い出の品のほかに、白い石のかけらようなものが沢山出てくる。それは、よく見ると、砕かれた骨だった。
お話は、その直後、3人が何者かに監禁され、10年前に起きた事件を少しづつ思い出していくパートと、もうひとつ、男(山本聡司)が自らの出生と生い立ち、そして幼き日に出会った少年(カオティックコスモス:はえぎわ)との想い出を回想していくパートが交互に語られていく。
(通常このブログで演劇を扱う場合は、ネタバレご容赦のスタンスなんですが、さすがに今回はそのものズバリなんで、お断りします。以下、ネタバレ要注意です)
脚本・演出の丸尾丸一郎がアフタートークで語っていたように、現在のパートは山篇、後者のパートは犬篇となっている。つまり、山本が暗黒舞踏を思わせる動きにより無言で演技(モノローグはナレーションを使っている)している役柄は、実は子犬なのだ。10年前に、殺人事件の被害者となって死んだカオティックコスモス演じる少年に成り代わって、犬が3人に当時の想い出を甦らせ、由紀子に伝わることがなかった想いを伝えようとしていたということが明らかになる。
最初に言ってしまうと、この仕掛けは見事にきまっている。途中、もしや、という思いが一瞬頭を掠めたが、わたしはそこまできちんと見破れなかった。そして、そのことが明らかになった後に、奈落から姿を現した少年が由紀子と向かい合うラストシーンは、斜めに対峙する構図も決まり、心から感動させられた。
そして奈落と書いたが、この芝居のために、舞台を底上げして作られた奈落が見事に機能しているのも素晴らしい。物語のスピーディな展開に、舞台上4か所に切られた穴が、大きく貢献している。まさにアイデアの勝利だが、この奈落の仕掛けを思いついた時点で、この芝居の成功は半分約束されたような気がする。(ただし、そのせいで、客席の最後列(H列)はひどく舞台が観づらかった)
ところで、冒頭の友人からの問いかけだが、答えは次回作以降に持ち越しとせざるをえない。今回の〝山犬〟は、スタッフのひとりである李の原案を、丸尾丸が脚本化し、演出したもので、この劇団の芝居としてはイレギュラーなものだったと思しいからだが、客演を含めて、役者たちはアクの強い演技が目立ったが、ホラー色の強い今回の物語ではさほど違和感を感じなかった。ともあれ、次回作を観なくては。

■データ
2006年9月15日ソワレ/ザムザ阿佐ヶ谷
9/14〜9/18
脚本・演出:丸尾丸一郎、原案・音楽:李、照明プラン:工藤雅弘(Fantasista?ish)、照明操作:保坂真矢(Fantasista?ish)、音響:高橋秀雄(SoundCube)、出演:丸尾丸一郎、オレノグラフティ、鬼頭真也動物電気)、菜月チョビ、山本雅司、カオティックコスモス(はえぎわ)