(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝猿の惑星は地球〟クロムモリブデン

クロムモリブデンという、航空機や自動車などに使われる熱に強い鋼材をネーミングした劇団は、作・演出の青木秀樹を中心に大阪芸術大学出身のメンバーで結成され、1989年に旗揚げされたらしい。出自からはアート系と察せられ、なるほど、衣装担当の人のブログ(http://salq.crome.jp/)を読むと、ユニークな衣装合わせの方法が紹介されており、また個人的には今回のチラシのアートワークに一目惚れしたということもある。もともとのホームグラウンドはもちろん関西だが、東京公演の経験も豊富なようで、今回の〝猿の惑星は地球〟は、拠点を東京に移してのある意味再スタートの舞台となる。
極彩色の舞台上にラウドな音楽が流れるアクの強い舞台だ。もう少し、物語性(正確には、物語の連続性)があるのかと思ったので、断片的なエピソードの羅列が続き、全体像が一向に見えない序盤は、まず不安になり、次に退屈した。個性的な役者が多く、何かやってくれそうな気配があるのは十分に見て取れるのだが、いかんせんまとまりがない。というか、まとまりを拒否しているような舞台進行が続く。
しかし、中盤を過ぎたあたりから、いくつかのコアなるエピソードの流れがようやく見えてくる。①猿と人間が逆転している惑星の物語で、猿たちは携帯を持ち、高度な文化生活を営んでいて、人間はプリミティブな存在でしかない。その惑星で出会う、二匹の猿(金沢涼恵、久保貫太郎)と二人の人間(重実百合、板倉チヒロ)。彼らは、「読むと死ぬ本」を探して、旅に出る。②ネタ不足に苦しむ放送作家(森下亮)が、無責任にも他人のネタを盗むが、それがヒット。しかし、それが思わぬ波紋を呼んで。③友人の命を救うために、100年のコールドスリープに入った少女(奥田ワレタ)が未来で目覚め、人間が不老不死の存在になっていることを知る。
これらの話が重なったり、絡み合ったり進行していく後半になって、やっと面白くなってくる。ただし、野田秀樹に繋がる演劇的な思わせぶりが顔を出したかと思うと、すぐに場当たり的なギャグに変換されてしまう。そのあたり、もう少し粘り腰をみせる場面があれば、観客に対してさらに強い印象を与えることができるだろうに。
もっとも、本人たちは、パフォーマンス性を重視して、演劇的な狙いは計算外なのかもしれない。怪しい病が伝播していくシュールともいえるエンディングは、ひっくりかえった玩具箱のような舞台を終わらせるための方便なのだろうが、観客を夢から覚めさせるような効果があって面白いと思った。

■データ
2006年9月12日ソワレ(初日)/中野ザ・ポケット
2006・9・12〜9・17(ザ・ポケット)10・12〜10・29(梅田HEPHALL)
作・演出/青木秀樹
出演/森下亮 金沢涼恵 板倉チヒロ 重実百合 奥田ワレタ 木村美月 久保貫太郎 山中卓磨 渡邉トカゲ 板橋薔薇之介 橋本浩明(水の会) 朝光亮 高嶋ひとみ(スプラッシュアソシエイツ) 倉田大輔(国民デパリ)