(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝泥棒役者〟劇団たいしゅう小説家

お笑い系としてラーメンズというコンビに人気あって、かなり面白いらしいという噂は、どこからともなく伝わってきていたが、ラーメンズ自体がTVとかのメディアには登場しないし、わたしの守備範囲ではほとんどといっていいほど目にとまらない。でも、絶賛する人があまりに熱狂的なので、大いに気にはなってはいたのだ。そこに目にとまったのが、劇団たいしゅう小説家の〝泥棒役者〟である。
劇団たいしゅう小説家は、株式会社キティフィルムが運営する劇団のようで、プロデューサーの高橋正行を固定し、毎回、作家、演出家、役者を招いて、公演を行っているらしい。2002年8月の第1回公演〝笑説・六人の怒れる優しいヒト々〟(山田隆道作、花緒垂志演出、渡辺慶主演)以来公演を重ね、今回の公演がちょうど10回目を数える。その〝泥棒役者〟のちらしに、ラーメンズの片割れ、片桐仁の名があり、ちょっと高いなぁとぼやきながら、6000円也のチケットを奮発した。
3人組の泥棒が忍び込んだ家は、立派な書棚や書斎があって、どうやら作家の住まいらしい。物色している最中にやってきた飛び込みのセールスマン(ムロツヨシ)への対応で、やむなく作家になりすました泥棒のうちのひとり(片桐仁)。ところが、一難をやりすごしてさぁ逃げようとする彼の前に、今度は原稿をとりにきた女編集者(上野なつひ)が立ちはだかる。そしてついには作家本人(きたろう)までもが登場し、作家、編集者、セールスマン、借金の取立人と、それぞれの思惑が勝手に暴走していく中、片桐演じる泥棒はますます窮地に立たされていく。
きちんとしつらえられた舞台装置の中で、やや古典的ともいえるコメディがきっちりと演じられていく。ちょっと驚いたのは、その笑いに、けばけばしい毒がほとんど感じられなかったことだ。いや、毒と笑いの相性を云々するつもりはないのだけれど、お手軽に毒のある悪意や苛めで笑いをとろうとするテレビを賑わすコントや漫才に馴れてしまっている身には、きっちりと書かれた脚本で、呼吸や間の取り方などに配慮した役者たちのコミカルなやりとりが、なんとも新鮮に映ったのだ。
人情味もあるコメディとしては、共通項もありそうなグリングを思い出したりもしたが、〝泥棒役者〟の方が、コント、ギャグ色が強く、作劇についても作為的な部分が多い。作、演出の西田征史は手堅く、いい仕事をしているが、そんな劇中で威力を発揮しているのは、やはりラーメンズ片桐の達者なコメディアンぶりで、さすがの存在感で笑いをとるきたろうとの相性も良かったと思う。モロツヨシらのひけをとらないサポートも見事だった。(90分)

■データ
2006年9月11日ソワレ/池袋東京芸術劇場小ホール2
9/9〜9/18
作・演出=西田征史 舞台監督=寅川英司(突貫屋) 照明=宮野和夫 音響=浦崎貢 美術=大津英輔制作=小畑幸英 音楽=向井達也 スタイリスト=伊賀大介 演出助手=高橋悠也
キャスト=片桐仁(ラーメンズ)/きたろう(シティボーイズ)/上野なつひ/小休暁/蛭子直和/ムロツヨシ