(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝ファイブ・ミニッツ〟劇団桃唄309

この劇団の得意技として、ISIS(自立不可能舞台装置システム)というのがあると聞いていた。これは、劇中の舞台装置を出演者たちが人力で支えるというもので、役者たちは本来の出番以外も書き割りなどを抱えて、舞台に登場しなければならない。そのせいか、彼らは舞台の周囲に待機していて、舞台とその周辺はなんともせわしない状況になってしまうのだが、物語が進行するにしたがって、何か役者や動く舞台装置などを含めて独特の一体感のようなものが生まれてくるから不思議だ。
幕開き、冒頭から緊張の場面である。刃物を手にした男が、人質をとって遠巻きにする野次馬たちを威嚇している。男は、どうやら何かに追いつめられているらしい。やがて、物語は過去へさかのぼったり、未来へと飛んだりしながら、拡散して、再び冒頭の場面へと繋がっていく。どこにでもありそうな平凡な町に訪れた危機とは、何であったか。謎のベールがはがされていく。
タイトルの「ファイブ・ミニッツ」は、積み重ねられていくエピソードのひとつひとつのことを指すのだろう。その名の通り、その断片のひとつはわずか5分間のものだが、そこには凝縮された物語がある。さりげないエピソードと思わせておいて、実はパズルの一片として重要な手がかりであったりするから、いい意味での緊張感があるのだ。時系列を無視する展開もあるが、観ていて判りにくさはまったくなく、役者たちが物語の全体像をきっちり咀嚼しているのが判る。この劇団は初体験で、客演を含めてわたしは初めて観る役者さんが多かったが、それぞれの個性的な役作りには、随分と感心させられた。
先のISISについてさらに言えば、舞台をシンプルにするとともに、舞台装置を効果的に使い、それが役者たちの自由度を増しているような気がする。そういう面白さの中で、冒頭のシーンに始まる多彩な登場人物たちが織り成す複雑なジグソーパズルが、出来上がっていく過程を観るような物語が語られていくのだから、これは快感だ。
印象に残った役者を書きとめておくと、にうさとみ、森宮なつめ、入交恵、小林さくら、佐藤達。秋の次回作は、劇団桃唄309の中でも定評のある演目の再演らしく、大いに興味をそそられる。どうやら、贔屓の劇団がまたひとつ増えてしまったようだ。

■データ
2005年12月2日ソワレ/中野ザ・ポケット