(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

NOVELA 25th ANNIVERSARY 〜 ORIGINAL MEMBERS@渋谷O-EAST

ノヴェラのライブアクトは、過去2度観ている。最初は、〝聖域(サンクチュアリ)〟のレコ発ライブのはずで、会場は中野サンプラザだった。もう一回は、〝ブレイン・オブ・バランス〟のレコ発で、こちらは渋谷公会堂。バンドとしては全盛期から過渡期に差し掛かっていた時期で、その2つのライブの間には大きな落差があった。サンプラザのステージは、シンプルながら石柱をイメージしたかと思われる布が天井から吊り下げられ、メンバー全員が白い衣装で、さながら神殿で繰り広げられるいにしえのコンサートの趣きがあって、プログレ時代のノヴェラの集大成と呼ぶに相応しい内容だった。(後に、ライブの模様は、〝フロム・ザ・ミスティック・ワールド〟にも一部収録された)
一転して、渋谷公会堂の方は、メンバー・チェンジがあって、それと同時にプログレ色が一気に後退したアルバム〝ブレイン・オブ・バランス〟を引っさげての公演で、最後にやった〝黎明〟のみが救いといいたくなるような、往年のファンにとって寂しい内容だったと記憶している。その後は、現時点で最後のオリジナルアルバム〝ワーズ〟を出したが、ノヴェラ・ファンの関心は、ジェラルドやテルズ・シンフォニア、そしてノヴェラの前身でもあるシェアラザードの再結成へと移っていった。
そんな中で、ノヴェラの熱烈なるファンのひとりであるわたしも、長い冬眠に入らざるをえなかったわけだが、その間にリリースされた〝ボックス・セット〟が完売になるなど、彼らの人気は衰えず、往年のバンドの再結成が続く中、いつかノヴェラが再びステージに立つ機会があるのではと、個人的には思っていた。九十年代以降も再結成の噂が浮上しては消え、〝ノヴェラ伝説〟なるイベント、そしてバンド自体はここ数年、夏に開催される〝ハードロック・サミット〟に短いセットで顔を出していたようだが、ノヴェラとしてのフルレンスのステージが、バンド結成25周年を迎えた今年、ついに実現したというわけだ。
メンバーは、秋田鋭次郎=エイジロー(ds)、高橋良郎=ヨシロー(b)、平山照継=テル(g)、永川敏郎=トシ(kb)、五十嵐久勝=アンジー(v)の5人で、これは完全に第1期のメンバー構成となっている。したがって、演奏曲も〝魅惑劇〟〝星降る夜のおとぎ話〟を中心に、〝パラダイス・ロスト〟と〝聖域〟から若干と、初期のノヴェラの再現となった。
アンジーのハイトーン・ボイスに、テルのカラフルなギター、トシのテクニカルなキーボードは、全盛期そのままと言ってよく、プログレハードというスタイルを切り拓いたノヴェラの魅力は、最初の〝イリュージョン〟から全開。アンジーのMCを挟みながら、前面に出るハードロック色に円熟味が加わった演奏は、年齢層の高い観客たちを大いに沸かせていた。
ただし、わがままを承知で言わせてもらうならば、個人的には〝パラダイス・ロスト〟〝聖域〟といった優れたプログレ・アルバムの曲をもっと聴きたかった、という不満が残らなかったわけではない。次の機会があるなら、バンドとしてもピークを迎えていた時代の再演も望みたいところで、笹井りゅうじ(b)、西田竜一(ds)らを交えたステージの実現を切に願っている。

(当日セットリスト)
1)イリュージョン2)名もなき夜のために3)奇蹟 (MC) 4)レティシア 5)ヒドラ伯爵の館 (MC) 6)リトルドリーマー 7)キーボードトリオ (ドラムソロ) 8)廃墟(MC) 9)魅惑劇(MC) 10)メタマティックレディダンス11)ナイトメア12)時の崖
(アンコール①)13)ロマンスプロムナード (アンコール②)14)メタルファンタジー15)フェアウェル


人間にも饒舌なタイプと寡黙なタイプがあるように、小説にも饒舌な小説と寡黙な小説があるんじゃなかろうか。だとすると、奥泉光の「モーダルな事象(桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活)」(文藝春秋)は、明らかに前者だろう。とにかく、主要な登場人物たちは、ひっきりなしに喋っているか、心の中で呟いている。読者としては、話好きの友人と向き合っているような、なんとも愉快な気分にさせられる。そんな小説だ。
主人公といえる登場人物は3人(2組)いる。ひとりは、サブタイトルにもなっている桑潟幸一大学助教授なる人物で(通称桑幸)、太宰を専門とする日本文学の研究者である。その世界では大した業績のあげていない彼だが、新しい文学事典の執筆に拘わったことから、太宰の親友であったと伝えられる他はほとんど知られざる童話作家の未発表原稿の発見者になってほしいと編集者から頼み込まれる。軽い気持ちで引き受け、雑誌に紹介の記事を寄稿するが、童話作家の遺稿は本にまとめられるや、たちまちのうちに大ベストセラーを記録し、紹介者の桑幸は俄かに時の人となる。
ところが、担当の編集者が殺され、その首が瀬戸内海に浮かぶ小島に流れ着くという事件が持ち上がる。その島は、童話作家の生まれ故郷の島のすぐ近くに位置していた。ジャズ・シンガーの北川アキは、桑幸こそが編集者を亡き者にした殺人犯ではないかと疑っていた。ライターの仕事もしている彼女は編集者から依頼を受け桑幸へインタビューした経験があり、事件を新聞で読み、ピンと来たのだった。アキは、かくして別れた亭主の諸橋倫敦とともに、二人三脚でこの事件を追い始める。
物語は、桑幸助教授の側と、アキ&諸橋の元夫婦刑事(実際には素人探偵なのだが)の二組が、双方から事件の真相に迫っていく。元夫婦刑事が名探偵顔負けの推理と捜査で事件の真相へと迫っていくのに対し、童話作家の生まれ故郷である小島を訪ねた桑幸は、調査を重ねれば重ねるだけ、事件の深みへの嵌まっていってしまう。
製薬会社の不気味な研究、怪しげな新興宗教、アトランティスのコインなど、怪しいガジェットが登場するあたり、理性的な推理小説というよりも、SFや怪奇の要素が横溢する伝奇小説の色合いが強いような印象があるが、この作者にして珍しく〝メタの構造〟とも無縁で、松本清張ばりのアリバイトリックが使われたりするところに意表を突かれる。そのあたりは、〝本格ミステリ・マスターズ〟という叢書を意識しての小説づくりなのだろうか?
そういう意味で、意外性も十分に盛り込まれており、読み応えのあるミステリに仕上がってはいるが、合理的な解決やフェアプレイはあまり前面に出てこない。むしろ、松本清張横溝正史というミステリのスタイルを借用しながら、独自の饒舌な文学を展開したものというのがこの「モダールな事象」の正体ではないかと察せられるが、どうだろうか。
やや大げさな言い方やもしれぬが、奥泉光版「虚無への供物」として、わたしはこの作品を支持したい。