(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝LAST SHOW ラストショウ〟パルコ・プロデュース公演

阿佐ヶ谷スパイダースの「悪魔の唄」、AGAPE storeの「仮装敵国」の第一話に続く、今年3本目の長塚圭史の芝居である。なかなか骨太いストーリーテリングを見せる「悪魔の唄」(作、演出、出演)と、ショートコントのような「仮装敵国」のエピソード(作)と、サンプル数は少ないのだが、それらに共通するのは、一種のキャンプユーモアというか、悪趣味な感覚である。これは、持ち味というよりは、味付け程度のものなのかもしれないのだが。
元アイドルの美弥子(永作博美)と結婚し、ローカルTV局で働く石川琢哉(北村有起哉)は、初めてディレクターとしての仕事を手にし、カメラマンの中島(中山祐一朗)とコンビを組んでいた。ところが、石川の意図する心温まるドキュメントという方向性に異を唱える中島は、取材対象である拾ってきた動物に愛情を注ぐ慈善家の渡部トオル(古田新太)を怒らせてしまう。企画がフイになるばかりか、会社を首になるという窮地に立たされた石川だったが、「渡部には絶対に何か裏がある」という中島の焚きつけに乗り、美弥子のファンだという渡部を自宅に招き、取材のカメラを廻すことに。
その前日の晩、石川が近所に出た隙に、実父の勝哉(風間杜夫)が久方ぶりに琢哉を訪ねてくる。どこか冷たく、ときに不可解な言動をみせる父親の勝哉を、帰宅した琢哉は持ち前の善良さで、暖かく接する。しかし、台所に立った美弥子に対し、突然、暴力をふるう勝哉。彼女の体に新しい命が宿っていることを知らされたばかりだった。翌朝、息子を監禁した勝哉は、琢哉の命と引き替えに、義理の娘である美弥子にとんでもない要求をつきつける。そこに、慈善家の渡部を連れて、カメラマンの中島がやってくる。
長塚について語られているものを見ると、家族というキーワードがよく目にとまるが、この「LASTSHOW」の俎上に乗せられているのは、非常に捩れた親子の関係だ。子を子とも思わない父親、父親は自らのエゴを暴力という手段で子どもにつきつける。もうここには、通常の感覚で共感できる人間関係は存在しない。
一方、慈善家である渡部の愛も尋常なものとはいえない。渡部は動物愛護の本でベストセラーを出した人物として登場するが、人間のモラルを涼しい顔で越える歪さがあることを、やがて観客は知らされる。彼の異形な存在感は、世間ではホラーの世界でしか成立しえないものといっていいだろう。
このふたりの登場人物は、長塚のキャンプ趣味を色濃く漂わせており、そのふたりの黒い思惑が、絡み合いながら、意表をついた展開を遂げていく後半は、ある意味、長塚の本領が発揮されている。わたし自身、このふたりの人物には、正直不快な気分を禁じえなかったが、ことの顛末を食い入るように見つめてしまった。
その原因のひとつが、鬼畜のような役柄を鬼気迫る芝居で演じてみせる風間杜夫の演技である。古田新太や若手の役者たちも(永作も含めて)なかなかいい芝居を見せてくれる中で、やはり風間の本気の演技は、ひときわ凄みのようなものが感じられて怖かった。さりげない台詞のひとことや、体の動きで、あそこまで恐怖というものを具現できることに、心から驚かされた。
ただ、猫のホテルから客演した市川しんぺーの役どころには、驚きを越えて、愕然とするものがあった。ああいう展開をあそこにもってこないと、加速する狂気にブレーキがかけられないというのは理解できるのだが。エンディングで石川が父親にマヨネーズをかけるシーンとともに、もうひと捻りが必要だったような気がするが、どうか。

■データ
2005年7月21日ソワレ/渋谷パルコ劇場