(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

Bondagefruit:Bondagefruit3〝Receit〟再発記念ライブ @初台The Doors

〝隠者の森〟というバンド名を、てっきりカルメン・マキの新しいユニット名だと思っていた。しかし、当日ステージに立ったのは、日頃より彼女が勤しんでいるソロ活動の際にバックをつとめているギターの桜井芳樹とベースの松永孝義に、太田恵資のバイオリンが加わった編成で、曲も「人魚」、「かもめ」というお馴染みのラインナップである。
この日は、ゲストの扱いということもあって、全体で1時間足らずの演奏だったが、バックが3人になったことによって、歌とバッキングというよりはバンド演奏に近いまとまりが出たように思う。バイオリンが加わったことで音がマイルドになったし、奥行きもぐっと広がった感じがする。5月に舞浜のクラブ・イクスピアリで観た彼女のソロ・ライブと比較して、この日はバンドとしての存在感と、それにともなって彼女の歌にも色彩感と華やかさが増したように思えた。

さて、メインアクトのBondage fruitだけれど、彼らのCDはプログレ・ファンとして2ndまではきっちりと追いかけていた。その後、やや遠のいていたものの、マッツ&モルガンの来日のときに、オープニング・アクトで登場した彼らの火を吹くような演奏を聴いて、正直ぶっ飛んだ。エキゾチックな風味に加えて、シンフォニックな展開まであって、とにかくその勢いと華のある演奏に圧倒された。
その後、彼らのことが気にはなりながらなかなかタイミングが合わず、ライブ会場には行けなかったが、サードアルバムが再発記念となったこの日、久しぶりに彼らの演奏を生で聴くことができた。メンバーは、鬼怒無月(g)、勝井祐二(vl)、高良久美子(vib)、大坪寛彦(b)、岡部洋一(per)の5人で、主にリードは最初のふたりがとる。
CDや過去1度だけ見たライブから受けるBondagefruitの印象は、個人的にはエスニック風味のジャズ・ロックなのだが、今回の演奏は非常にミニマル色を強く感じさせるものだった。もちろん、要所要所を締める鬼怒のギターは非常にソリッドにリズムを刻むし、勝井のバイオリンも流麗なメロディを奏でるのだけれど、全体に混沌としたイメージが支配し、ジャズロックとしてのスリリングな演奏はイントロとエンディングに絞られていたような気がする。
再発となったサードアルバムはライブ・レコーディングで、その際、作曲者でありながら、鬼怒が岡部のドラムスに騙され、フライングをしてしまったエピソードや、初期の曲の楽譜には意味不明なイラストが描かれていたと語る鬼怒のMCも愉快だった。アンコールの2曲目には、なんとカルメン・マキが登場し、〝両者の音楽性があまりにかけはなれている〟と観客を笑わせたあとで、bondagefruitを従え、「時には母のない子のように」を、ジャジーに歌い上げた。
プログレ・ファンとしては、やや退屈な場面もあったが、疲れて帰宅すると、また彼らの演奏が聴きたくなり、あわてて過去のアルバムをひっくり返した。彼らのライブには、機会をみてまた足を運ぶことになるだろう。