(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝Young Marble Giants〟KERA・MAP#004

ヤング・マーブル・ジャイアンツ」というタイトルに、はは〜ん、とようやく思い至ったのは、不覚にも舞台の進行が終盤に差し掛かってからのことだ。なるほど、若くて、まだ開花していない大輪の可能性を秘めた役者たちの才能に敬意を払っての命名であったか。KERA・MAPの新作は、すべてオーディションの新人たちで演じられている。吉祥寺の新しい劇場〝吉祥寺シアター〟の柿落とし公演である。
ダンスを交えた出演者総出の大掛かりなモブシーンがあって、ストーリーが始まる。ふたりで暮らす姉と弟の物語である。姉の消崎由香(宗清万里子)は、所帯持ちの男密かに交際しているが、その関係になんとか終止符を打とうとしている。弟の消崎健太郎(野部友視)は、学校でクラスのいじめっ子である、教室でリストカットするなどの問題児であった。健太郎はリストカットで入院した病院で、ひとりの少女夏川香江(初音映莉子)と知り合う。彼女は、不治の病のボーイフレンドがいるが、ひょんなことからふたりは仲良くなる。やがて、偶然にも彼のクラスに転校してきた彼女に、次第に惹かれていく。
一方、由香は、病院からの連絡で、入院した弟のもとを訪れるが、彼がクラスメートたちを苛めていたらしいことを知る。彼女は、弟とのコミュニケーションを図ろうとしていたが、なかなかうまくいかなかった。やがて、別れた男が自殺をしたことから、彼女はその家族から責められ、賠償金を要求されることに。姉は、弟との関係を修復していくために、以前から身近な話を寓話に仕立て弟に聴かせていたが、それをさらにエスカレートさせていく。
無料で配付されるプログラム(これが豆本仕立てでなかなか洒落ている)にケラが気の利いた事をコメントしている。彼は、両極ともいうべき芝居のスタイルを旅に例えて2つ挙げている。すなわち、治安のいい国を観光するような芝居と、未開の密林を彷徨するような芝居。今回の海のものとも山のものともつかない役者が山のように舞台に上がる「ヤング・マーブル・ジャイアント」は、もちろん後者である。
なるほど、ややもすると過剰に迫ってくる寂寥感や閉塞感。とにかく未熟さゆえのマイナスな空気がそこかしこに充満した芝居である。ケラは、そのややもすると濃密によどむ空気を、彼なりの演劇という手法で、時に毒を薄め、そして時に毒をさらに盛りつける。ややもすると混沌とした印象があるのは、主に役者たちの力量の限界が原因なのだろうが、自らをアピールしようとするエネルギーが、ともあれドラマの継続を支えていく。
旨いな、と思ったのは、由香が弟のために作り話をしていく中の一エピソードとして登場する荷物運びをするふたりのOLの話だ。キンギョ(皆戸麻衣)とフナワ(小林由梨)という名のコンビを登場させ、彼女たちに丁々発止のやりとりを交わさせる。これが、ちょうどいい加減に物語りの狂言回しの役割を果たしていた。息苦しい物語展開の中にあって、ここだけは心地よく息抜きが出来た。とりわけ、B-amiruの小林のチャーミングな芝居ぶりは、次を観たいと思わせてくれるものがあった。
出演者たちの未熟さはもちろん目立つが、最後は、舞台裏の搬入口まで開放する芝居づくりもあって、ケラが全力投球しているのは十分理解できた。吉祥寺シアターという新しい劇場の魅力もフルに活用した芝居としては、成功だったと思う。ここのところの半年に4公演という、20年目を迎えたというケラの旺盛な創作意欲には、心からのリスペクトを捧げたい。よし、次はいよいよ8月の〝健康〟の復活だ!

■データ
2005年6月27日ソワレ/吉祥寺シアター