(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝約30の嘘〟

詐欺師たちの騙し合いの物語だと聞いて、コンゲームなどのミステリ映画を勝手に連想していた。監督は、大谷健太郎。TVなどでお馴染みの顔ぶれがキャストを固めるオールスターの俳優陣もあって、公開時はそれなりの話題を集めたと記憶している。
大阪から札幌へと向かう寝台夜行列車トワイライト・エクスプレス。その客室では、ニセモノの羽毛布団を売りさばき、大儲けを企んでいる若い6人の男女がいた。かつて彼らは同じ詐欺チームの仲間だった。3年前に、仲間の裏切りが原因で分裂した彼らだったが、久々に招集がかかり、一堂に会した。
志方(椎名桔平)は、かつてグループを率いるリーダーだったが、3年前の失敗のショックから、腑抜け同然の状態になっている。今回の計画は、そんな志方に替わって、久津内(田辺誠一)が計画したものだったが、どこか頼りなく、なかなかグループを掌握しきれない。おまけに、アル中を克服した佐々木(妻夫木聡)と新メンバーの横山(八嶋智人)は、美人の宝田(中谷美紀)をめぐって、何かと摩擦を起こす。さらに、久津内が、3年前の裏切りの原因ともなった今井(伴杏里)を仲間に引き入れたことで、チームの間にぎくしゃくした空気が流れはじめる。ところがあにはからんや、計画の方は首尾よく成功。儲けの大金を大きなトランクにつめこみ、彼らは帰路につくが、その途中で、現金の入ったトランクが忽然と消えてしまう。
全編、走行中の列車内だけで繰り広げられる密室劇、というのも元になったのが舞台劇と聞いて納得。(原作は、脚本のチームの一角を占める土井英生)しかし残念ながら、その密室という状況は、この映画の場合、あまり活かされているとはいえない。せめてトランク消失の不可能性にもう少し話が向けば、この舞台を固定したシチュエーションは生きてきたかもしれないのだが。出来上がった映画は、むしろ物語の閉塞感の方が前面に出て、ドラマはせせっこましい印象を観客に与えているのではないか。
ドラマの鍵を握るのは、胸の大きさをめぐって対照的に描かれるふたりのヒロインなのだが、ふたりが対決するクライマックスは、ミステリを青春ドラマにすりかえられたような肩透かし感が残る。脚本の着地点は悪くないと思うが、平凡。ミステリとしての価値は、ないに等しい。なお、タイトルは、人はいったん嘘をつくと、そのせいで30もの小さな嘘をつかなければならなくなる、という登場人物のひとりが口にする人生訓から取られている。[★★]

(以下ネタばれ)
消失したと思われた現金は、別のトランクに隠されていた。トランクはふたつあったのだ。志方と佐々木の共謀だったが、志方はそれを独り占めし、今井とともに途中下車し、持ち逃げしようと企む。自信を失い、追いつめられていた志方は、チームの仲間たちとの関係にピリオドを打つことが目的だった。駅に着く寸でのところでカラクリを見抜いた宝田は今井と対決し、金をもって行っていいから、志方は連れていかないでくれと懇願する。かくして、今井は現金をもって下車。志方は、宝田に勇気付けられた結果自信を回復し、チームは結束を取り戻す。