(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

OSAKA NEON KNIGHTS vs 幽霊や!きょ〜ふ!@中野SANCTUARY

「対自核」や「パラノイド」いった遥か昔のシングルヒットくらいしか知らないわたしが、ユーライア・ヒープブラック・サバスのコピーバンドのライブに足を運んだのは、もちろん別の動機がある。それぞれのバンドに、気になるアーティストが参加しているからだ。すなわち〝幽霊や!きょ〜ふ!〟にはアンジー(ノヴェラ、シェアラザート)が、そして〝OSAKA NEON KNIGHTS〟には、森川健司(ex.ソフィア)青木彰一(テルズ・シンフォニア)大久保寿太郎(スターレス、ファイガ)が、それぞれ名を連ねている。
その中で、とりわけ気になったのが、ソフィアの森川健司である。ソフィアといっても、近年ヒットを飛ばし、TVの歌番組に出演しているソフィアではない。かつてジャップス・プログレの屋台骨を支えた同名の関西のバンドで、80年代に大活躍した。ソフィアのサウンドは、ラッシュとノヴェラタイプのプログレハードを融合したような強力なもので、当時は東京にもよく遠征してきて、わたしはエッグマンで観た彼らの素晴らしい演奏が、えらく心に焼き付いている。自主制作のミニLPとキングのネクサス・レーベルから正式なファーストアルバムをリリースしているが、当時の彼らの凄さを伝える音源とは言い難く、今も彼らのことを思い出すと、残念でしょうがない。
森川は、そのバンドのボーカリストで、とにかく声域が広く、メロディアスなナンバーにも情感を込められる歌い手だった。今回のライブは、わたしとしてはおそらく20年ぶりくらいの再会となるわけで、告知から当日まで、非常に楽しみにしていたのだが、その期待は裏切られなかった。さすがに、ルックスこそ当時のめだって華奢だった体に少々肉はついていたが、声の艶はほとんど衰えを感じさせない。MCもなしに、立て続けに数曲をぶっ通しで歌いながら、まったく息切れすることなく、曲を歌い継いでいく。他のメンバーも、リラックスしながらも、持ち前のテクニックを遺憾なく発揮し、プログラムを進めていく。MCでは、自らをブラック・サバスではなく、ロニー・ジェイムズ・ディオへリスペクトを捧げている、というようなコメントもあって、なるほど選曲の幅はサバス一辺倒ではなかったようだ。
一方の〝幽霊や!〟は、ツインリードボーカルでのステージ。ボーカリストの声質が、まったく異なるせいか、コーラスなどの小技が見事に決まっていく。キーボードにハモンドが入っているので、叙情的な曲ではプログレ風味を大いに醸す。ハードロック一色だろうとたかを括っていたわたしとしては、嬉しい驚きだった。
あと、特筆すべきは、ギタリストの金谷幸久の超絶テクニックだろう。わたしは、この人をまったく知らなかったが、実に自在に、自由度の高いギターをプレイする人と見受けた。〝幽霊や!〟は、彼とアンジーの雑談から始まったと聞くが、考えてみると非常に贅沢なコラボレーションを含むバンドだ。
プログレ・ファンとしてとても嬉しかったのは、〝OSAKA〟のアンコールで、シェアラザードの曲をやってくれたことだ。それもナント3曲も。最初の「鏡」の途中からは、なんとアンジーも飛び入りし、往年の名曲をふたりで切々と歌いあげた。
森川のボーカルを久しぶりに聞いてしみじみ思ったのは、非常にもったいないということだ。現在、どういう活動をしているかは不明だが、ソフィア解散以降は、これといったパーマネント・バンドでの活動の噂を聞かない。ソフィアの再結成は無理だとしても、ボーカリストの彼を必要としているバンドは、いくらでもあるだろうに。

蛇足だが、会場の中野サンクチュアリーは、西武新宿線にいかにもローカルな駅、沼袋から徒歩5分ほど。そこそこの広さがあるし、ステージも狭すぎず、なかなかいいライブハウスと見受けた。当日の会場には、スターレスの新ボーカリスト荒木真偽ちゃんの姿もあった。次の機会には、ここをホームグラウンドとする彼女のバンドのライブにぜひ足を運びたいものだ。