(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

ジェスロ・タル @渋谷公会堂

幻のライブというのがあるとすれば、わたしの場合はジェスロ・タルの日本公演がまさにそれだ。彼らが最初に日本へやってきたのは1974年のこと。当時彼らはバンドとして上り坂から全盛期に差し掛かるところにあったわけだが、遅れてやってきたファンのひとりであるわたしは、不幸にしてそのライブに足を運んでいない。しかし、その時のライブに立ち会った人々の話は、嫌というほど聞かされた。彼らは、一様にこう口にしたものだ。〝史上最高のロック・ショウであった〟と。その悔しさから、将来機会があれば、絶対に行くぞ、と内心誓っていたのが彼らのライブだった。
ところが、そこまで熱くなりながら、二度目、三度目の来日も仕事の繁忙期と重なり、なんと行けなかったのである。でも、その時はあまり評判がよくなかったと聞いている。そして、今回が四度目の正直だ。今度こそはと、去年、ジェスロ・タルのホームページに極東、オセアニア・ツアーの予定が掲載されているのを知って以来、指折り数えて心待ちにしていた。昨年の12月だったか、前売りのチケットが取れた時は、小躍りしたものだ。最初、一日限りの公演予定だったが、チケットがソールドアウトになったのか、すぐに追加公演が出た。追加日は「アクアラング」の全曲を演奏するというふれこみだった、しかし、残念なことに二日目は日程が合わずに、初日だけに足を運んだ。
幕があがり演奏が始まると、最初からエネルギッシュなステージが繰り広げられる。年齢層が高いせいか、観客は着席したままだが、会場内に熱気は十分に満ちているのが判る。それに応えるかのように、イアン・アンダーソンはパワフルに動き回り、力強い歌を歌い上げ、フルートで唾を飛ばしまくる。ええ、この人って、本当に70歳近いの?信じられない。トレードマークの一本足で軽々とポーズを決めたかと思うと、シアトリアルな演出で舞台上を狭しと動き回る。噂どおりのアクティブなライブアクトだ。
この日の演奏曲目だが、わたしは、「ジェラルドの汚れなき世界」と「パッション・プレイ」から演らなかった事くらいしかわからなかったが、熱心な友人に聞くと、全般に渋めな構成だったという。しかし、次から次へと披露される曲は、どれにも華があり、十分にタル節が堪能できる内容だった。
車椅子で歌うなどというたちの悪い噂を吹き飛ばしてくれたアンダーソン爺さんの元気さも嬉しかったが、個人的にはマーティン・バレの地味ながら味わいのあるギターも印象深かった。派手さはないのだが、ちょっと癖があり、そこから滋味があふれるようなプレイは、タルの個性をしっかりと支える演奏として見ごたえのあるものだったと思う。
全体で2時間弱。もう少し聞きたい思いも残ったが、メンバーの年齢を考えるとこれ以上は望めないだろう。今回が彼らを聴く最初で最後の機会にならないことを祈りたいものだ。

(以下、当日のセットリスト)
1.Introduction(SE) 2.For A Thousand Mothers 3.Nothing Is Easy 4.Beggar's Farm 5.Eurology (Anderson Solo)6.With You There to Help Me 7.In the Grip of Stronger Stuff (Anderson Solo)8.Hunt by Numbers 9.Weathercock 10.Bouree 11.Cheap Day Return 12.Mother Goose 13.Morris Minus (Barre Solo)14.Songs from the Wood〜Too Old to Rock'n'Roll : Too Young to Die〜Heavy Horses〜Songs from the Wood(reprise) 15.Pavane 16.Farm on the Freeway 17.Budapest 18.Aqualung (encore)19.Wind Up 20.Locomotive Breath 21.Protect and Survive 22.Cheerio