(その後の) a piece of cake !

今宵、すべての劇場で。

〝オールド・ボーイ〟 (2004)

2004年のカンヌでグランプリという鳴り物も入った本作は、「殺人の追憶」と並んで、昨年公開された韓国映画の中では飛びぬけて評判のよかった作品といえるだろう。ミステリ・ファンにも強くアピールしたという点でも双璧。なんと原作は日本のコミックで、九十年代後半〝漫画アクション〟に連載された劇画を「JSA」のパク・チャヌクが映画化した。DVDの発売を楽しみに待って、アマゾンで予約したのだが、いやはや、4月はあれこれ慌しくて、観終えるのがだいぶ遅くなってしまった。
オ・デス(チェ・ミンシク)は、ある日、ホテルの一室のような場所で目が覚めた。それが彼の長い囚人生活の始まりだった。彼は何者かに誘拐され、理由もわからないままこの部屋に幽閉されたのだ。三度の食事は運ばれてくるが、部屋から出ることは一切許されない。自らの手首に歳月の経過を刻み込み、自分をこんな目に合わせた相手への復讐を胸に、オ・デスは囚われの日々を送っていた。
ところが、永遠に続くかと思われた監禁は、15年目のある日突然に終わった。解放されたオ・デスは、彼をこんな目に遭わせた相手に復讐するため、料理店で出会った少女ミド(カン・ヘジョン)とともに犯人探しを始める。監禁中に運ばれてきた餃子の味を手がかりに、ついに監禁場所だったビルを発見。彼を閉じ込めていた監禁ビジネスの経営者に口を割らせる。しかし、彼の前に現れた犯人の男ウジン(ユ・ジテ)は、監禁された理由も判らないまま自分を殺すのか、とオ・デスに問いかけ、5日間の期限で彼に謎を解くよう持ちかける。
生理的な嫌悪感をかきたてるバイオレンス描写が非常に多く、前半ははっきりいって作中に入っていけない思いで眺めていた。タランティーノが好きな監督らしく、暴力を題材にしたスタイリッシュな演出やお遊びもあるのだが、それを楽しむ余裕がなかなか湧いてこないのだ。主人公の凄まじい復讐心ばかりが剥きだしとなって、観ていて辛かった。
しかし、監禁の犯人がウジンとわかり、そこから本当の推理が始まる。オ・デスの記憶が少しづつ紐解かれ、やがて浮かび上がる恐るべき事実。いやぁ、これには驚きました。すべてのパズルのピースが収まるべきところに収まると同時に、そこからデモーニッシュな犯人の企みが浮かび上がってくる。そのたたみかける展開には、舌を巻いた。
しかし、その企みの中にも、また悲劇のドラマが沈殿している。この謎は、よく出来たミステリの謎であるとともに、人間そのものの謎ともいえる。後味の悪さを指摘する映画評をずいぶんと見かけたけど、わたしは感動しました。この真相には、前半のバイオレンスの悪どさを浄化するような力を感じる。そして、さらに待ち受けるエンディングも素晴らしい。いい映画を観た気がする。
三人三様のキャスティングもそれぞれによく、ミドを演じたヒロインのカン・ヘジョンもチャーミングだ。しかし、もっとも印象に残るのは、狂気と悲劇の犯人像を見事に重ねて演じてみせたユ・ジテだろう。彼の危うい存在感が、この映画を成立させる奇跡的なドラマを支えている、といっても過言ではないと思う。[★★★★]

オールド・ボーイ プレミアム・エディション [DVD]

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(以下ネタばれ)
ウジンとオ・デスは、実は高校時代の同窓生だった。ウジンは、姉に焦がれ、ある日学校の教室で、ふたりのセックスを偶然に覗き見てしまう。その秘密を聞いた友人は、オ・デスが口止めしたにもかかわらず他人に喋ってしまう。その結果ウジンの姉はダムに身を投げて、自殺したという過去があった。
オ・デスを15年間監禁したウジンの真の目的は、オ・デスにも近親相姦の罪を背負わせることだった。すなわち15年というのは、オ・デスの娘が成長するに足りる時間だったのだ。オ・デスとミドの記憶を消し、互いを他人として再会させ、関係をもたせるというウジンの企みは見事に成功した。
真相を知ったオ・デスは苦悩し、ウジンの許しを乞い、ミドには知らせないように懇願する。自らの舌を断ち切ったオ・デスを見てウジンは彼を許し、ミドには真相を告げず、自らの命をたつ。最後のシーンで、催眠術師に乞うて忌まわしい記憶を消してもらったオ・デスは、何も知らないミドと雪原で再会を果たす。